ずっと、永遠に
一周年企画
「・・・雅也」



 優しく呼びかけられて、引き寄せられる。

 ぎゅっと抱きしめられるままに、雅也はその胸に頬を寄せた。

「ミツキ兄・・・」

 吐息のように囁いて目を閉じれば頭のてっぺんにキスをされた。

「雅也、今日何の日か覚えている?」

「ん。・・・覚えてる」

「本当に?」

「本当に!」

 疑いの色を滲ませる問いかけに苦笑を零しつつ顔を上げればすかさず唇が落ちてくる。

 額、両の頬、鼻のてっぺん、唇の端。

 それから、瞼にも。

 そのまま閉じたままでいれば、小さく笑う声が聞こえて次いで唇に光輝のそれが重なった。

 優しく。優しく・・・。

 唇で唇を食まれて、時折戯れのように舌先が触れて。

 小さく二人、笑い合う。



「雅也からキスを求めてくれるようになるなんて、一年前は思いもしなかった」

「・・・オレも、思わなかった」

 額を合わせたまま、光輝はからかうような眼差しを。雅也は困ったような眼差しを絡ませた。

 一年前は、父は違っても同じ母から生まれた異父兄弟の自分たちがこんな関係になってしまったことにひどい罪悪感があった。

 今だってそれは拭い去れないものだったけれど、でもそれ以上に失えないものを見つけてしまったのだと分かってしまったから。

「雅也・・・」

 低い、欲の滲んだ声で誘われる。

 とたんにどきどきと胸が高鳴り、頬が自然と紅潮するのを止められない。

 伏し目がちに少し唇を開いて顎を上げるとすばやく口付けられた。

 先ほどとは違う、激しい交わりに雅也は耐え切れなくて光輝にすがりつく。

「んっ・・・。はっ・・・ぁ、んんっ」

 息継ぎもままならず、どちらのものともつかない唾液が唇の端から零れ落ちる。

 肌蹴られる服。

「ぁあっ。んっ」

 さらされた素肌を煽るように触れられて声が抑えきれない。

「あ・・・。や、だ・・・。こ・・・こじゃ、やだ」

 いつの間にか光輝の唇は雅也のそこから離れて首筋へと移っていた。

 日に晒される事のない白い肌に赤い華をいくつも咲かせて。

「・・・ベッドに行く?」

 耳元で問われて何度も頷きを返すと、すでに力の抜け始めた雅也の体を抱き上げてベッドへと運んだ。

「ミツキ、にぃっ」

 以前の自分では考えられないような甘い声で兄を呼ぶ。

 腕を伸ばして、その顔を引き寄せて自分から舌を差し出して。

 まだ服をきっちりと着込んだままの光輝の服を脱がしに掛かった。

「・・・ほんと、一年前とずいぶん変わった」

 嬉しそうにされるがままになっている兄のズボンに手をかける。

「・・・・・・・・・・」

「・・・してくれるの?」

 一瞬戸惑い、けれど決意を固めたようにベルトを外し、ファスナーに手をかけた雅也に光輝は問い掛けた。

 雅也は無言で兄のそれを取り出すと口に銜えた。

 ぎこちなく唇と舌を使う。手もできるだけ支えるだけではなく刺激を与える。

「・・・あ・・・ぁ。気持ちいいよ、雅也」

 うっとりとこぼれた言葉に、雅也自身も背筋がしびれる。

 触れられてもいないのに自身が反応する。

「雅也、もういいよ。・・・今度は、俺に触れさせて」

 顎が痛くなるくらい大きくなったそれから唇を離す。けれど名残惜しくて最後にキスを落とした。

「ま、さや」

 困ったような顔に大きく息をつきながら首を傾げる。

 あらゆるもので濡れた口元を拭っているとその手を取られて押し倒された。

「・・・まったく、どこでそんな事覚えたの?」

「え?」

 訳がわからなくて、目を瞬いているうちに再びキスの雨が降る。

「あ・・・。ん。・・・ふ」

「雅也も、俺のに触っていて気持ちよかった?」

「やぁっ・・・んんっ!」

 光輝のを銜えていた時から反応していたそれを擦られて、びくりと体が振るえた。

「かわいい、雅也・・・」

「あっ。ああっ。ん・・・ぁ。はぁっ、あっ! やっ! ダメ、だって! ミツ・・・キにぃっ!」

 射精を促す動きに首を激しく横に振る。

「やだ! やだ、よっ!」

「どうして?」

「っ・・・!」

 まさか一緒にイキたいからとは言えずに押し黙る。そんな中でも容赦なく攻め立てられてぼろぼろと涙がこぼれた。

「雅也・・・」

「い・・・いっしょ・・・にっ!」

 促されて、どうしようもなくなってけれど懸命に伝えた言葉は光輝に届いたようでぴたりとその動きが止まった。

 荒く息を継ぐ。

 止められたら止められたで辛い。

 だから。

「はやく・・・っ!」

「! 雅也・・・っ」

 入り口に押し当てられた兄の熱。

「・・・ミツキ兄?」

「慣らしてないから・・・」

「いい。それでもいい。・・・大丈夫、だから」

 毎夜のように抱かれ続けた体は受け入れる事に慣れている。

 だからきっと大丈夫。

「・・・分かった」

 ちゅっと額にキスを受けて、次いで開かれる体。

「ぁ・・・はっ」

 慣らしていない分、キツイそこは互いに辛いものがあったけれど、それでも何とか呼吸を合わせて少しでも楽になれるようにと努める。

「っつ!」

「う、つっ・・・はぁ」

 深いため息に、全てが治まったのを知り雅也も息をついた。

「大丈夫かい?」

「ん、平気・・・」

「良かった・・・」

 優しい言葉に笑みを浮かべて、そのまま戯れるようにキス。いつの間にか深くなった口付けに合わせて互いの腰が動き始める。

「んっ。ぁ・・・はぁ。あ・・・ぁ。んっ・・・ぁあっ! あんっ、んっ!」

 初めは優しく、けれど馴染むようになった頃には激しく突き上げられた。

「まさ、やっ」

「あっ。ミ、ツキに・・・っ」

 互いにきつく抱きしめ合って、がむしゃらに口付け合って、これ以上ないくらい繋がり合う。

 それがこんなにも幸福な事であると、一年前の雅也は知らなかった。

 互いの感情が正しいものに思えなくて、一線を越える事ができずにいたあの頃。

 確かに今も、罪深い事であると分かっているけれど。

「っつ!」

「ん、ぁああっ!」

 果てた後の、光輝の幸せそうな笑顔を見てしまえばそんな事は二の次でいいのとだと思えてくる。

「・・・来年も、こうして二人で祝おうね」

 ぎゅっと抱きしめられて、雅也は思わず苦笑をこぼす。

「オレはこんなことばっかりしてないで、ちゃんとご馳走も食べたい」

 放って置かれた所狭しとテーブルにあるご馳走。

 二人が抱き合っている間に冷めてしまったであろうそれらを、来年は暖かいうちに食べたいと思う。

「・・・雅也は俺よりも食べ物の方がいいのかい?」

「せっかくミツキ兄が作ってくれたんだ。あったかいうちに食べたいよ」

「大丈夫。冷めても美味しいように作ってあるから」

「・・・そういう事じゃなくて」

「うん。分かっているよ。来年はちゃんと食べよう。来年だけじゃなく、再来年も、その次の年も」

「・・・うん」

 優しい光輝の微笑みに涙が出そうになる。

 幸せってこういう事なんだなぁと、暖かい胸の内にしみじみと思った。










 来年も、再来年も、その次の年も。ずっと永遠に二人で・・・・・・。










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