こーちゃんの声は、子守唄みたいだ。
低く、優しい声が胸の奥に響いて、張り詰めていた心を溶かす。
オレの名前を呼ぶ声はいつも呆れた色をのせているけれど、その奥に隠れた優しさがたまらなく嬉しい。
名前を呼んでほしくて、無茶な事をしてしまうのはここだけのヒミツという事で。
え? そんなこと知ってる?
うわっ。それはちょっと・・・恥ずかしいかも。
今さらとか言われるともう笑うしかないね。
あ。笑うといえば、こーちゃんの笑い方も、すごいいいよね。
目を細めて、そっと口元が緩んで。
なんかね、見てるときゅんとしちゃうんだ。
時々すごく、儚い感じがするのが気になるけど・・・。
どこか諦めたような、そんな切ない感じ。
そんな笑みを見るとさ、胸が苦しくなって悲しくなってきて、こーちゃんを抱きしめたくなる。
そんなこと実際したら殴られるんだけど、殴られてもいいから全力で抱きしめたくなるよね。
オレがいるよ。だからそんな顔しないで。って。
そういえば、前に一度やっちゃったことがあるんだよね。
初めてその笑顔を見た時、だったかな?
思わず抱きしめちゃって、驚いたこーちゃんがすごい暴れたっけな。
なんなんだ!って怒鳴られて、反射的にオレはここにいる!って叫んだんだ。
そしたら黙っちゃって、そのままどこかに行っちゃった。
その後会った時はもう普通だったから忘れていたけど、あの時、こーちゃんは何を思っていたんだろうね。
それから、かな?
こーちゃんの態度が少し変わってきたのは。
前からだったけど前以上に、困っている時にさりげなく手をかしてくれたり、追い詰められた時は助けてくれたり、声が・・・優しくなったのは。
オレも、こーちゃんの声を聴くだけで胸があったかくなってきたのはその頃からかも。
すごーく安心しちゃって、もうずっと傍にいたいぐらい。
ラベンダーの香りもあるのかもしれないけど、こーちゃんそのものが精神安定剤って感じで、離れたくない。
・・・あはははは。
本当は、分かっているんだ。
安心するだけじゃないって。
この気持ちが、こーちゃんに向ける感情が、友情だけじゃないって。
でもさ、それを押し付けたらこーちゃん困っちゃうでしょ?
だからって完全に押し込めるのも難しいから、冗談めかして『愛の告白』をしているんだよ。
これだったら冗談ですむでしょ?
こっちがふざけた態度をしている限りは本気とは取られないだろうし、本気じゃないって思っている間は、こーちゃんを困らせる事もないだろうし・・・。
こーちゃんの心にはオレが入り込めない誰かの存在があるのは分かっているから、それで、いいんだ。
こーちゃんの声は、子守唄みたいにオレの心を安らげるけど、それと同時に誤魔化しようもない恋情を揺り動かす。
それは時折痛みもあるけれど、癒してくれもするのは確かなんだよ。
『君を想う5題 』 配布元:空想残骸
プラウザを閉じてお戻り下さい。