コツコツコツコツ。
一定の間隔で刻まれる音。
その音の発生源の主は、とても不機嫌そうに見える。
コツコツコツコツ。
彼を中心に生み出される不穏な空気。
「ねぇ、皆守クン」
本当は話しかけたくなかったけれど、あたしは勇気を出して声をかけてみた。
ギラリと睨み付ける勢いで振り向かれて、本気で関わりたくないと思ったけれど、クラスメート達の視線がそれを許してくれなかった。
「えーと・・・、なにかあった?」
なんと聞いていいのかも分からなかったから、とりあえず無難に聞いてみる。
「・・・何もない」
むっすりと顔をしかめて何もないなんて無理があるような・・・。
「なにか、困っているように見えるんだけど」
「困ってない」
「じゃあなんでそんな不機嫌そうなの?」
「不機嫌じゃない」
強い口調で否定する皆守クンをあたしは思わずまじまじと見つめてしまった。
だって、こんなに感情を露わにするなんてめずらしいよ。
「ねぇ、ほんとにどうしたの?」
なんだか心配になってきて彼の正面の席に座った。
「何でもないって言ってるだろ」
「うそ! なにかあったんでしょ? そうじゃなきゃそんな顔しないよ?」
じーっと見つめれば、皆守クンは気まずそうに視線をそらしてため息をつく。
「・・・本当に何もないんだよ。ただ・・・」
「ただ?」
「無性に腹が立つ」
「なにに?」
「あいつだよ、あいつ!」
力の込められたこぶしがぶるぶると震えていた。
あいつとは誰をさすのかあたしにはすぐにわかった。
「は、葉佩クン?」
恐る恐る聞いてみれば、皆守クンの目が怖いくらい鋭くなってあたしは体が震える。
ここまで皆守クンを怒らせるなんて葉佩くん、いったい何をしたんだろう。
「あいつの存在そのものが腹が立つ」
存在そのものってちょっとひどいような・・・。
「あいつの、なんでも引き寄せる体質・・・」
ん?
「あれだけこーちゃん、こーちゃん言って引っ付いてくるのに、声かけられればフラフラ着いていきやがって・・・」
これはあたしに言っているの・・・かな?
「ただ純粋に懐かれるのならいい。だが、やつらは裏に下心を抱えているってなんで気がつかないんだ」
もしかしてこれって・・・。
「俺が一番だって言うならなんでなんでやつらのところにいるんだ?」
「えーと・・・嫉妬?」
口に出したとたんものすごい目で睨み付けられてあたしはまたも体が震えた。
「はっ。俺が嫉妬なんてする訳ないだろ?」
「えー・・・そう?」
「そうだよ」
すっごい顔を引きつらせている事に気がついていないのかなぁ?
「俺のどこに嫉妬する理由があるんだ?」
「いやぁ、だってさ・・・」
言葉を続けようとした時、皆守クンはバンッと机を叩いて立ち上がった。
「どこに行くの?」
「どこでもいいだろ」
言い捨てると教室を出て行ってしまう。
残されたのは静寂に包まれた教室。
「えー・・・と・・・」
とりあえず不穏な空気の発生源は出て行ったけれど、変わりに漂うこのなんとも言いがたい空気はどうしたらいいのだろう。
あたしはぽりぽりと頬をかいた。
「とりあえず・・・葉佩クンにメールしておこうかな」
皆守クンが寂しがってるよって。
後で怒られるかもしれないけど、それ以上に浮かれた皆守クンが見れるのかも?
「それはそれで面白いかも」
あたしはニヤニヤと緩む頬を隠す事ができないまま、さっそく携帯電話を取り出した。
数分後、ダッシュで戻ってきた必死の顔の葉佩クンを見て思うのは。
「愛されてるじゃん」
その一言。
両思いなんだから回りを巻き込むのはやめてほしいよね!
『君を想う5題 』 配布元:空想残骸
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