クラスメート
九龍妖魔學園紀 皆守+主
『監視すべき相手』。
「こーたろっ。」
だからこの声に反応する。それ以外の理由は無い。振り返ると、馬鹿みたいな笑顔の葉佩がいた。
「ん?」
「授業始まるぞ。」
「そうか。じゃ。」
授業中は寝てるコイツに監視の必要はない。片手をあげて挨拶すると、屋上に行くべく、くるりと背中を向けた。
「こーたろー。」
背中にしがみつかれるが、その侭歩くと引きずられるように葉佩もついてくる。
「何だよ?…つか重いって。」
「酷いわッ。年頃の乙女に向かって『重い』だなんてッ!」
「…保健室行ってこい。」
「…冷たい。」
拗ねた声に仕方無く立ち止まり、葉佩に向き直る。
「じゃあ選択肢をやる。ここで俺と離れて一人で教室に戻るか、お前も屋上に来るか。どっちがいい?」
「甲太郎と一緒に教室に戻る。」
「…お前な。」
選択肢に無い事を即答するな。そう言い掛けた俺に、葉佩は不満げに唇を尖らせた。
「だってさー、甲太郎、居なさすぎだろ。俺、一緒に授業受けたいし…。」
「寝てるだろ、お前。」
「そっ、そうだけど…ほら、俺には人の役に立つという使命が…その為にも休息は必要で…。」
葉佩が、ごにょごにょと言葉を濁す。
「俺にも休息は必要だ。」
そう言って葉佩に背を向けようとすると、力の無い声で呼ばれる。
「甲太郎…。」
眉を下げて情けない顔をした葉佩と目が合った。普段は見無い表情に、ワケも無く焦る。
「俺、甲太郎と授業受けたいよ。…迷惑か?」
「い、いや、そんな事は無いけどな…。席が隣なだけで、俺が居なくてもお前の爆睡には影響無いだろ?」
俺も寝る所為か、教師は隣の葉佩だけを起こす事はしない。寧ろ起こさない。それだけは利点だが、普通に起こして起きる葉佩でもない。
「違うよ。折角日本の学校来れたんだし…クラスメートとしての時間、大事にしたいんだ。俺は、甲太郎と同じ授業を受けて、コソコソ話したり、寝たり、普通の事したい。」
遺跡がこんな場所に無ければ、今こうして学生生活を送る事は無かったんだろう。普通の事に憧れる。葉佩の隠された一面を垣間見た気がした。
やや低い位置にあるその黒い髪に、ぽん、と手をのせる。子供を慰めた事なんて無いが、きっとこんな感じなんだろう。
「授業、出てくれるか…?」
そうやって上目遣い気味に見るのはわざとか? 男のくせに可愛く見えるとか血迷った事思うからやめてくれ。
「…仕方無ぇな。」
「やった♪ 甲太郎と授業だ♪」
クラスメートの役割なら、八千穂だけで充分だと思うが…変な奴だ。でも、ま、飽きないからいいか。それに、屋上で寝るか、教室で寝るかしか違わない。
「行くぞ、葉佩。」
向き合っていた葉佩の首に腕を絡ませ、教室に向かって歩き出す。
「え? えっ? 甲太郎、今名前呼んでくれた?! ……えへへへ〜。」
後ろ向きに引きずられるように歩きながら驚く葉佩は、直ぐににやけた笑い声をあげた。いつもの馬鹿みたいな笑顔をしてるんだろう。
そう思うと、何故か自分まで顔が緩んだ。
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