Good Night
九龍妖魔學園紀 取手×主
眠る為に必要なのは
優しい、君の瞳
あたたかな、君の手
二人で交わす、甘いキスと
『おやすみなさい』
夢の中でも会えますように
バディとしての遺跡探索を終え、シャワーを浴びた僕は、頭にタオルを被せたまま窓を開けた。細くなった白い月が、薄い雲に見え隠れしている。
「はっちゃん…。」
最近、少し様子がおかしい。何か悩み事があるらしくて、溜息をついたり、物憂げな…それでいて色気のある表情を見せる。時々その表情で僕を見つめるのに、何も言わずに…何かあったのかと聞いても、何でもないと繰り返す。それは…僕が頼りないから…?
考え出すと不安になるばかり。はっちゃんは、同性だという事に悩んでも、僕を恋人として選んでくれたけど…僕はまだ少し、自分に自信が無い。
最近一緒にバディになっている七瀬さんもはっちゃんの様子には気付いていたから、原因について意見を聞いてみたんだけど…。
「取手さん、男なら行動あるのみ、です。」
両手で持った本で口元を隠していたけれど、目が楽しそうだったのは何故だろう…?
結局、どうすればいいのか分からなくて…ここ数日、僕も眠れなくなってきていた。
僕は、はっちゃんに相応しい強さが欲しい。はっちゃんに好きでい続けて貰えるような自分で在りたい。何時か僕とは別の道を行くのだから…尚更。
それから暫くして、ベッドの中で起きていた僕の耳に、遠慮がちなノックの音が聞こえた。こんな時間に来る可能性があるのは一人だけで、急いでドアを開ける。
「起きてたんだ…? 遅くにごめんね、かっちゃん…。」
そこにいたのは、少し驚いた顔のはっちゃん。
「寝てるかもしれないと思ったんだけど…来ちゃった。」
「僕も起きていたから、気にしないで。」
申し訳なさそうに言うはっちゃんを部屋に招き入れ、電気を点けようとすると、後ろから抱きつかれた。
「……は…はっちゃん?」
「…かっちゃん…。」
驚く僕の名前を呼ぶ声が頼りなくて、ドキドキしながらも心配になる。
「どうしたんだい…?」
「俺達、ちゃんと恋人?」
「…え?」
「俺は、かっちゃんと…その…抱きしめたりとか、したいけど…俺、魅力無いかな…。」
はっちゃんにしては珍しく、歯切れが悪い。でも…言いたい事は、ちゃんと分かった。
僕達は、手を繋ぐ事はあっても、抱きしめあった事は殆ど無い。僕が恥ずかしいのもあるけど…もし、僕と近付く為に悩んだはっちゃんに嫌な思いをさせてしまったら…という思いが、心の何処かにあった。
でもそれが、はっちゃんを不安にしていたなんて…思いもしなかった。
「はっちゃん。」
静かに呼び掛けて、深呼吸をした。そんな事は気休めで、心臓が落ち着いてくれないのは分かっているけど…。
体の前に回された腕をとり、そっと緩めると、はっちゃんに向き直った。その背に僕も腕を回す。
「…はっちゃんは、僕には勿体無いくらい魅力的だよ。僕が…躊躇ってしまうだけなんだ。」
真っ直ぐに僕を見上げてくる目を逸らさず、僕は言葉を続けた。
「はっちゃんが好きだよ。だから…臆病になってしまうんだ。…頑張るけど…こんな僕では、嫌になってしまうかな…?」
弱さを打ち明けると、はっちゃんは、ふわりと笑って僕の頭を撫でた。その手が気持ち良くて、そこにある気持ちが嬉しくて、自然と笑みが浮かぶ。
「ならないよ。俺、かっちゃんのそんなトコも好き。」
僕の欠点を受け入れて、笑顔でそう言ってくれるはっちゃん。何時も僕の背中を押してくれる。
…壊れてしまいそうな心臓が震わせる手で、はっちゃんの頬を包む。近かった顔を更に近付けると、はっちゃんも緊張した…でも嬉しそうな顔で、目を閉じる。
初めて重ねた唇の柔らかさに驚いて、直ぐ離してしまったけれど…もう一度触れ合わせたそれを、何度も軽く吸った。合間に舐めていると、はっちゃんも僕の唇を舐めてきた。自然と舌が触れ、次第に絡み合う。そうして零れたはっちゃんの吐息混じりの声に、何だかぞくぞくしてしまった。僕は、まだ上手とは言えないけど…ずっとこうしてキスしていたい。はっちゃんが好きだって事…伝わっている気がするから。
短いような…長いような時間の後、唇を離した。窓からの明かりは頼りなくて、近いから辛うじて表情が分かるだけの筈なのに…はっちゃんの顔が赤いのが分かるよ。僕と同じだね。
ベッドの中で手を繋いで、僕達はもう一度、触れ合うだけのキスをした。
「おやすみ、かっちゃん。」
「おやすみなさい…。」
「一緒に寝るの、初めてだね。かっちゃんの夢見たりして。」
「僕もはっちゃんの夢を見たいな…。」
『おやすみなさい』
太陽が目覚めるまで
同じ夢で会えますように
夢も現実も
君と笑っていますように
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