學園の屋上で愛を叫ぶ
九龍妖魔學園紀 皆守←主
夏休みを過ぎた9月。
私たちの学園に季節外れの転校生がやってきた。
彼の名前は『葉佩 九龍』クン。
笑顔がとっても素敵な彼は、実は天香學園に隠された秘宝を探しにきたトレジャーハンター・・・のはずなんだけど・・・。
「あ! 甲太郎発見!」
がしゃんっ。と開け放たれた屋上の鉄の扉。
「げっ」と小さく呟いた皆守クンが腰を浮かせようとしたとき、
「ターゲット、ロックオン!!」
叫びと共に重石のついたロープが勢いよく飛び伸び、皆守クンの体を捕獲した。
「ゲット・トレジャーっ!」
ガッツポーズ付きで遺跡の中で何度も聞いた台詞と共に現れた彼は、皆守クンの姿を見るなりポッと頬を赤らめてはにかむように笑った。
九龍クンが、転校してきてから一ヶ月とちょっとが経った。
學園の墓地に隠されていた遺跡に潜るようになったのが日課になったある日、あたし、こと八千穂明日香は九龍クンを探して屋上にやってきたところで先程の騒動に遭遇した。
「会いたかったよ、甲太郎〜」
ロープでぐるぐる巻きにした皆守クンに抱きつく九龍クンは、それはそれは幸せそうで、あたしは声をかける事が出来ずにその光景を見ていた。
「あ〜っもう! 遠目からみても堪らなかったよ。その細い腰に長いあ・・・」
「はなせ、変態!」
器用に体を捻らせて足を振り上げた皆守クンは、その足を避けようと離れた九龍クンからすばやく距離をとった。
ちっと舌打ちして緩んだロープを忌々しそうに解く。それを不満そうに見つめている九龍クンに気が付いた皆守クンはロープを彼に投げつけた。
それを難なくキャッチしていそいそと制服にしまう九龍クン。っていうか、入るの?
「なんなんだお前は! 毎日毎日朝から晩まで俺にくっつきやがって!」
「え? 晩も?」
思わず反応してしまったのはしょうがない事だと思う。けれど二人は今あたしの言葉に反論する余裕がないらしい。
・・・ちょっとさみしいかな、うん。
「そんなの俺が甲太郎を愛しちゃってるからだろ? 妻は朝の起床から夜のお勤めまで担うのはあたり前じゃないか!」
「誰が妻だ。誰が!」
「この俺だ! そう、俺は妻だ。なのになんでなんだ・・・。毎晩体の隅々まできれいに洗っておニューの下着はいていつだってスタンバイOK!なのに、なんで甲太郎は俺を押し倒さないんだ! おかしいんじゃないか、甲太郎?」
「おかしいのはお・ま・え・だ!」
蹴りを入れる皆守クン。
すばやいその動きに驚く間もなく、「ぐはっ」とうめき声が聞こえて振り向けば、そこには腹部にヒットしたらしい九龍クンがお腹を抑えて方膝をついていた。
どうでもいいんだけど、いつの間にそんなに親密になったの二人とも。
そんな赤裸々な話をされちゃうと、あたしちょっと恥ずかしいな。
おっと、そんな事を考えている場合ではなく。
「だ、大丈夫、九龍クン?」
慌てて彼に近寄ると、あたしに気が付いていたらしい九龍クンはにっこりと極上の微笑を浮かべた。
「ありがとう、やっちー。優しいんだね・・・」
「え、そんな・・・」
うっかり、赤くなってしまったのはしょうがない事だと思うの。
けれど、そんなあたしの乙女心など気付きもしない九龍クンはわなわなと拳を震わせ、皆守クンを睨み付けた。
「それに比べて甲太郎は・・・。俺に愛がないんじゃないのか?」
「もとからそんなものはない!」
気持ちいいほどすっぱりと切り捨てられて、眉を吊り上げた九龍クンは皆守クンにではなく、校庭に向かって、
「むかつくーっ! でも、敵の攻撃をかわす時俺に足払いをかけても最初はまったく信じていなかった宇宙人をうっかり信じそうになっても毎日三食カレーを食べつづけるカレーレンジャーでもだるいだるい言いながら何気に面倒見のいいアンニュイな甲太郎が俺は大好きなんだーっ!」
叫んだ。
それはもう、すばらしいほどの声量で。
「やかましいわっ!」
瞬間的に振り上げた足を難なくかわした九龍クンは両腕で目を覆って校舎に向かって走り出す。
校庭から「痴話げんかなら他でやれ!」と、苦情が来たけど二人とも聞いているわけがなく。
「わ〜ん、もういいっ! 甲太郎のバカっ! すどりんに言いつけやるから〜っ!!」
「あ、こら! 待て、九龍!」
それだけは止めろ!
九龍クンの素敵な捨て台詞はどうやら皆守クンに効いたらしく、慌てて彼を追って校舎へと消えてしまった。
なんていうか・・・。
「愛されているよね、皆上クン・・・」
無駄に疲れたような気がするのは気のせいではないはず。
「あ・・・。ヒナ先生に呼ばれていたこと伝えるの忘れちゃった」
まぁ、いっかな。
今追いかけてもきっと追いつかないし・・・。
とまあ、そんな感じで秘宝よりも皆守クンを追いかけている方がいきいきしているように見えるのは、きっとあたしだけはないはず・・・。
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