Happy birth day
九龍妖魔學園紀 皆守×主
『皆守って、4月12日が誕生日なんだ』

『それがどうかしたのか?』

『んーん。なんでも。って、もう18なんだ。早いね、誕生日。あっという間におじさんだね』

『・・・おまえだって必ず年をとるだろ』

『それでも、皆守よりも遅いし』

『何月なんだ?』

『8月5日』

『おまえも18だろうがっ』



 そんな事を話したのは、葉佩が天香学園に来てまもなくの事。

 プリクラと一緒にプロフィールを書いて寄越した皆守に、その時は何の気なしに口にしたことだった。

 それは皆守も同じことで、『おじさん』と言われたことに少なからずむっとした口調で返してきただけの事。

 そう、その時は互いに誕生日に昼飯ぐらいはおごってやるかーというくらい軽い感情だった。

 それが、たった三ヶ月で覆される関係になろうなど、誰が考えただろうか。

 何を血迷ったか男同士で想い想われる関係、つまりは恋人になったのだが、そうなると誕生日に対する重要度も変わってくる訳で。

「う〜ん・・・」

 葉佩は壁にかかったカレンダーを睨み付ける。

 無駄に大きい文字で印刷されているAprilの文字。その12日についた赤丸。

 愛しき皆守甲太郎の生誕の日。

 もうその日は目前だった。

 しかもお付き合いを始めて初めての誕生日ときたら気合が入らないわけもなく、葉佩は一人、もんもんと考え込んでいた。

 皆守といったらカレーとアロマ。

 ベタにそれらをプレゼントするのもいいが、それは他の友人たちも容易に思いつくものだと思ったら、もっと他の、『恋人』として特別なものをあげたいと思った。

 けれど、いざ何を、となるとこれがまた思い浮かばず探索が終わればカレンダーと睨めっこの毎日だった。

 そうして思い知ったこと。

「俺、甲太郎のことほとんど知らないんだ・・・」

 落ち込んで、うなだれて。

 考えてみれば、出会ってからまだ半年ばかり。その半分は彼のそばを離れて遺跡探索に明け暮れていた。

 いくら密度の濃い三ヶ月でも、互いを知るには短い期間だったのは否めない。

「甲太郎、カレーとアロマ以外に何が好きなんだろ?」

 呟いて、また落ち込む。

(こうなったら本人に聞いてみる?)

 ふいに浮かんだ思いつきにいやいや、と首を振る。

 こういうのは驚かせて喜ぶ姿を見るのがいいわけで、本人に聞いたらそれも半減じゃないのか?

 けれど、的外れなものを選んでがっかりさせるなんて絶対に嫌だし。

 だったら、やっぱり聞いてみる?

 いやいや、それではプレゼントをあける時のどきどき感が半減だし。

 でもー・・・。



(堂々巡りだし・・・)



 はぁーと息をつく。

「・・・もっと、いろんな事を聞いておけばよかった」

 ベッドに大の字に寝転がり、葉佩は目を瞑った。





 結局。





件名:
今日もこっちの空は青いぞー
本文:
やっほー。甲太郎、元気にしてる?
俺は相変わらず遺跡に挑んでまっす!
いやー。今回もまた手強いのなんのって(笑)
詳しいことは言えないけど、ぐわーでごわ―って感じ。
そうそう。そういえばさ、甲太郎ってカレーとアロマ以外に何か好きなものってあるの?





(直球すぎた・・・っていうか、誕生日を意識していることがバレバレ)

 H.A.N.Tを抱き込み、あまりにも捻りのない内容に自己嫌悪に襲われる。

(だって、なんて聞けばいいか分かんなかったんだもん! 下手なものあげて嫌われるよりは聞いたほうがマシだ!)

 自分自身に言い訳して、ぼすぼすと枕に八つ当たりをする。

「あー・・・どきどきする」

 甲太郎は今のメールを見て何を思っただろう。

 誕生日関連であることは明らかだ。きっとすぐに察して「ふっ」と失笑するに違いない。

 ふいに脳裏に浮かんだ甲太郎の顔。

「・・・会いたいな」

 きゅっと心臓が絞られるような感覚に眉を寄せる。

 と、抱き込んだH.A.N.Tから甲太郎と同じ着信メロディが流れてきた。

(来た!)

 早まる鼓動を宥めつつ、ごくりと喉を鳴らした葉佩は恐る恐るメールを開いた。











「!!!!!!!」



 心臓が、止まるかと思った。

 一瞬の思考停止の後、ぐわあぁぁっと勢いよく頬を染めた葉佩は

「う・・・わーーーーーーっ!」

 この胸から溢れ出す想いの奔流をどうしたらよいのか分からずぼすぼすぼすぼすと、無意味に枕をベッドに叩きつけ、己の顔を埋めると力の限りそれを抱き締めた。

 芯のない枕は力を入れれば入れるほど潰れていく。

 けれど、頼らずにはいられないほど、壊れそうなほど胸を叩く鼓動を押さえる術を知らなかった。

「信じらんない信じらんない信じらんないっ!」

 忘れていた。ものすごく重要なことを。

 そう。

 皆守甲太郎は時々とんでもなくハズカシイ言葉を、恥ずかしげもなく言ってのけるという事を!

「あー、もうっ!」

 と、葉佩は頬の熱りが治まらぬまま、大きく息をつく。

 そうするとしだいに落ち着きを取り戻し始めた感情に、じわじわと染み渡る幸福。

「しょーがないなー。甲太郎のために頑張るとするかなー」

 皆守が今、自分と同じ想いなら、きっとそれが最高のプレゼントになるはず。

 と、口元に浮かぶ笑みを抑えることができない。

 よしっ!と、気合を入れて立ち上がると、葉佩はすばやくメールを返信する。

 もう一度、彼から送られてきたメールを見て、それに軽くキスを落とすと葉佩はアサルトベストを着込んで部屋を出たのだった。









件名:
Re:今日もこっちの空は青いぞー
本文:
おまえ。






知らなかったのか?










件名:
Re2:今日もこっちの空は青いぞー
本文:
知ってた!
俺も甲太郎が大好きだーっ!










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