Happy Happy Happy Halloween!
九龍妖魔學園紀 皆守←主
「Trick or Treat!」

 バン!


 勢いよく開け放ったドアの先にはリラックス効果のある花の香りが優しく香る部屋。

 その主がベッドの上から何事だと目を見開いてこちらを見つめていた。

 九龍はにっこりと笑って両手を差し出す。

「甲太郎! Trick or Treat!」

 もう一度言うと、この部屋の主、皆守甲太郎が嫌そうに顔をゆがめた。

「なんのマネだ」

 分かっているくせにそんな事を言う。

「甲太郎、今日は10月31日。ハロウィンだよ。お菓子をおねだりに来たら『Happy Halloween!』っていうんだぞ。で、お菓子プリーズ」

「なにがお菓子だ。ここは日本なんだよ。ハロウィンとは関係ないだろ。遊んでないで寝ろ」

 何時だと思っているんだともそもそとベッドにもぐりこむ甲太郎。

 けれど、九龍はめげずにベッドに近づくとすでに寝息をたて始める体をゆさゆさと揺すった。

「ねーっ、甲太郎! お菓子! じゃないと悪戯するぞ!」

「・・・・・・」

 脅すが、甲太郎は沈黙。

「・・・・・・」

 九龍は辛抱強く、甲太郎が反応するのを待った。

「・・・・・・」

 沈黙沈黙。

「・・・・・・」

 沈黙沈黙沈黙。

「・・・・・・・・・・・・甲太郎が隠し持っているスパイスを全部砂に変えてやる」

「なんだとっ!」

 ぼそりと呟くと、それはもうすばらしい身体能力で跳ね起き九龍を睨み付る。

「こーたろ♪」

 にこにこにこにこと笑顔で手を差し出す。

「・・・・・・」

 苦々しく口を歪める甲太郎はしばらく九龍を見つめるとやがてがくりと頭をたれた。

「・・・菓子なんてこの部屋にはない」

「えーっ」

「『えーっ』じゃない。そもそも分かってて来たんだろうが」

 ぼりぼりと頭をかくその顔はすでに諦めの色が浮かんでいる。

「目的はなんだ」

 言えば、くすりと九龍は悪戯っぽく笑った。

「察しのいい甲太郎は大好きだよ」

「早く言え」

 愛の告白をしているというのに聞く耳を持たない甲太郎にむっと眉を寄せたが、これはいつもの事なので深く気にすることなく九龍はつんつんと自分頬をつついた。

「Kiss me please」

「は?」

「お菓子のかわりにちょうだい?」

「・・・・・・」

 今度は寝た振りでなく、口をぽかんとしたまま硬直しているようだった。

「I want your kiss」

 重ねて言うと、甲太郎ははっと我に返って不機嫌そうに顔をしかめた。

「いいーじゃん。ほっぺたにキスくらい!」

 無言を通す甲太郎に抗議をすれば「はぁあぁぁ」と大げさなくらい大きなため息をつかれる。

「スパイスを砂」

 ぼそり。

「わかった。してやる。だからそれはやめろ」

 うなだれながら低く唸る。

 ようやく観念したらしい甲太郎ににっこりと笑った。

「では、いただきます♪」

 目を閉じて、その時を待つ。

 けれど、甲太郎はしばらく動く気配がなかった。

 だが、それもしょうがない事だと思う。

 日本では恋人関係でないとそう簡単にはキスはしないのだから。

 きっと躊躇しているのだろうと九龍はさして気にせずにいた。

 ゆらりと空気が動く。

 ようやく気持ちが固まったらしいとくすりと笑みを浮かべた時、優しい感触が訪れた。唇に。

(へ?)

 思わす目を開けるとすでに遠ざかる甲太郎の顔で。

「え?」

 状況を把握できずにいる九龍を勝ち誇ったように口角を上げる親友の顔。

「えええぇぇぇっ!」

「うるさい」

 静かにしろ言うその声も楽しそうだ。

「なに? なんで? え?」

 顔を真っ赤に染め上げてうろたえる九龍に甲太郎は満足そうに笑う。

「いつもおまえの思ったとおりになると思うなよ」

 どうやら負け惜しみゆえの行動だったらしい。

(だからって何でMouth to mouth!?)

 口元を抑えて泣きそうになってもそれはしょうがない事だと思う。

 だが、しかし。

(・・・役得)

 可愛らしくうろたえる裏で、むふっと笑った九龍はやはり強かな生き物だった。



 Happy Halloween!










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