星に願いを
九龍妖魔學園紀 皆守×主
「ささの葉さ〜らさら の〜き〜ばに揺〜れ〜る お〜星さ〜ま キ〜ラキラ 金銀す〜な〜ご♪」








 しなる幹からたれる葉が、まるで天から手を伸ばすかのように大地に向かっていた。
 カサカサと軽い音を立てながら、九龍は一つ一つ丁寧に葉に星を散りばめてゆく。
 続けて二番を口ずさみながら、長方形の紙を取り付けにかかった。

『これは確か日本の行事の・・・七夕だったかな』

 ふいに背後から聞こえた優しい声に、九龍は小さく笑みを浮かべた。

『うん。明日は7月7日の七夕の日。離れ離れの恋人たちが一年に一度会う事が許された日』

『ほう』

 白髪が目立つ壮齢の男性は、含み笑いをして庭先に飾られた笹を眺めた。

『ずいぶんと綺麗に飾り付けをしたね。まるでクリスマスツリーのようだ』

『クリスマスツリー! 確かにそうかも』

 色とりどりの飾りが施されたそれは確かにクリスマスツリーに似ているものがある。
 違うと言えば願い事を短冊に書いて飾りにしてしまう事か。

『あ、そうだ。義父さんの願い事、これに書いてよ』

 室内にいる義父に長方形の色紙を渡した。

『これは?』

『これは短冊といって、この紙に願い事を書いてあの笹に飾るんだ。そうすると願い事が叶うんだよ』

『なるほど。それは素晴らしい』

 頬を緩め短冊を受け取ったが、しばし彼は考えるようにそれを眺めた。

『義父さん?』

『いざ願い事を書こうとすると迷ってしまうものだね』

 照れたように苦笑する義父に笑みを返す。

『一つだけじゃなくていいよ。たくさんあるから。たくさん飾ろう?』

『でも、それじゃ。叶えきれないんじゃないのかい?』

『いいんだよ。だって、織姫と彦星の幸せのおすそ分けを貰うようなものだし、だったら貰えるだけ貰えばいいじゃない』

『クロウは欲張りだね』

『とうぜん! なんせオレは宝探し屋《トレジャーハンター》だし』

 胸を張って言い切れば、義父はそれもそうだと声を上げて笑った。

『クロウはどんな願い事をしたんだい?』

『え? う〜ん・・・世界平和?』

 わずかに頬を染め、九龍はそっと笑みを浮かべた。
 その様子に、義父はすぐにそれがごまかしと気がついた。

『それは本当の願いではないね。本当の願いは教えてはくれないのかい?』

『・・・教えない。願い事は言ったら叶わないんだ。だから義父さんにも秘密』

 ふいに浮かんだ寂しそうな色に義父は眉を寄せる。

『クロウ・・・』

『宝探し屋《トレジャーハンター》だから、あれが欲しい、とか物理的なお願いはしてないよ』

 義父の視線を受けて、慌てて付け足した九龍はそれ以上の追求から逃れるように庭の笹の下に向かった。





 たくさんの短冊。
 たくさんの願い事をした。

【世界平和】
【悪徳ライバル激減】
【義父の体調が良くなるように】
【五体満足 怪我なく 探索】
【ラブハンター 撃退】

 などなど。
 真面目なものから不真面目なものまで、それらはすべてかなえて欲しい願い事ではあるけれど。
 書けなかった願い事が一つ。
 言葉に、文字にできなかった想いが一つ。













「・・・甲太郎」













 切ない気持ちを抱えながら夜空を見上げる。
 今、彼は何をしているのだろう。
 九龍と同じように空を見上げているのだろうか。

『クロウ! H.A.N.Tにメールが届いたようだよ。指令じゃないのかい?』

『あ、今行くよ』

 義父の声に気持ちを切り替えるように頭を振り、もう一度夜空の星を見上げてから室内へと戻った。

『ありがとう、義父さん』

『いや、早く見ておいで。・・・ああ、クロウ』

『うん?』

『書いた願い事は庭の笹に飾ればいいんだね』

『そうだよー。好きなところに飾っていいからね』

 にっこりと笑みを浮かべた九龍はさっそくメールを読み始める。
 庭に出た義父は綺麗に飾り付けをされた笹に感嘆の表情を浮かべると、なるべく空に近い所に短冊を取り付けた。
 その方が願いを叶えてくれそうな気がしたから。
 途中、いくつかの短冊が目に入ったが、ほとんど日本語で書かれているために内容は不明だ。
 けれど。

『どうか、私の願いを一番に叶えておくれ』

 そっと笹の葉を撫でて義父は室内へと戻った。
 リビングでは協会からの新しい指令に九龍が意気揚揚と握りこぶしを掲げている。








 そんな二人を見守る笹が一本。
 風に吹かれてさらさらと葉を揺らしていた。













【May it fulfill a true wish of a son!】










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