愛しさの種
九龍妖魔學園紀 取手×主
 はっちゃんが居ない新年を迎えて、今は二月。帰ってくると約束した来月の卒業式が待ち遠しくて、時間の流れが遅く感じる。

 はっちゃんの詳しい居場所は企業秘密のようなもので、知られるのは本当は良くないらしいけれど、僕には教えてくれていた。その場所について調べたり、他の遺跡の事を知ろうと図書室に通っていると、時々七瀬さんが暴走したように力説を始める。日々遺跡の知識が増していく僕は、良い話し相手らしい。

 バレンタインの今日、八千穂さんと椎名さんと七瀬さん、ルイ先生と何人かの女子、それから何故か肥後君に、チョコを貰った。

 肥後君は普段から「おやついる?」と色々くれるから、特に違和感はなく受け取ってしまった。他の人にもあげている様子が、食べ物で人が幸せになると言う彼らしい。

 義理だから受け取ったチョコは、優しさと友愛がこもっていてどれも嬉しかった。こんなに沢山貰ったのは、生まれて初めてだよ。

 そう言えば移動教室の時、横から突然誰かに押し倒された。

「?!」

「アタシのクチビルを・ア・ゲ・ルッ!」

「三点バーストッ!」
 その重みは直ぐに消えて、驚きながら顔を上げると、墨木君が立って遠くの砂煙を見ていた。何が起こったのか僕にはよく分からなかったけれど…遺跡で何度か見た技が必要な程危険なものが、僕にぶつかってきたのだろうか。

 墨木君曰く。

「バレンタインは取手ドノの身辺警護をするよう、學園を去る前に隊長ドノからお言葉を頂いているのでありマスッ!!」

 …はっちゃん、何時の間に? 

「警護は続行するので安心して下サイッ」と別れ際に敬礼されて、思わず僕も敬礼を返してしまった。律儀な彼の事だから、寮に帰るまでは何処からか見ているのかもしれない。ユニークで真っ直ぐな人だね。








 寮へ急ぐ帰り道、ふと目に付いた場所に、はっちゃんの顔が浮かんだ。校内探索の後、闇に紛れてキスした場所だったから…。何だか照れてしまうけれど、嬉しい思い出の一つ。

 日付が今日に変わった時、はっちゃんが電話をくれた。

『かっちゃんが誰に告白されるか分からないから…一番最初に好きって言いたかったんだ。』

 時差だってあるのに。仕事の都合だってある筈なのに。そんな可愛い事を言われたら、抱きしめたくて我慢出来無くなる。愛されているという実感に、逢いたい気持ちは募るけれど、寂しさなんて綺麗に消えてしまった。

『有難う。…心配しなくても、僕は告白なんてされないよ…?』

『そんな事分からないよ。俺は、かっちゃんの魅力いっぱい知ってる。でも…そんなかっちゃんの想いを一人占めできるのは、俺だけだよね?』

 僕は一瞬、呼吸を忘れそうになった。太陽のように輝く強さを持っていて、見た目よりも男らしい君なのに……。どうしてこんなに可愛いんだろう? これ以上君を好きになったら、僕はどうすればいいのかな…?

『…勿論だよ。はっちゃんは僕の特別だから……君になら、僕は全てを捧げられるよ。』

『うん…へへ。有難う、かっちゃん。大好き。逢えるまで頑張ろうねッ。』

 二人して照れながら好きだと告げあって…励まし合って。それだけで幸せな僕は単純かもしれない。








 寮に帰ると、予想通り荷物が届いていた。はっちゃんからだ。僕はエアコンを点けるのも忘れて急いで配達用の袋を開け、綺麗に包装された小さな箱二つを取り出した。緊張しながら丁寧に包装紙を外し、ゆっくり箱を開ける。

 一つ目はチョコだった。音符記号とピアノを象ったチョコが並んでいる。色々味があるようで、見た目も上品。それをはっちゃんがくれたと思うと、見ているだけで甘い曲が出来そうな気がした。

 二つ目は何かの大きめな種と、育て方が書かれた紙だった。文の下に日本語訳が手書きされていて、右下の余白にはメッセージ。

『絶対に綺麗な花が咲くからって薦められたんだ。どんな花なのか、二人で見れたらいいね!』

 そうだね、また二人で手を繋いで同じものを見たい。その時のはっちゃんの笑顔が目に浮かぶよ。どんなに綺麗な花よりも、僕ははっちゃんを見つめてしまうだろうな。

 二人で見よう、と言い切れない事を、きっと寂しがったりしただろうはっちゃん。今は遺跡の中かな?

 何から言おうか言葉に迷いながら、はっちゃんにメールを打ち始めた。少しでも多く伝えたい。僕がどんなに君を想っているか。それだけは誰にも負けない自信があるよ。

 メールや電話も嬉しいけれど、今日みたいな日はやっぱり君を抱きしめて伝えたいから……どうか、怪我の無い元気な君と再会出来ますように。その時は、この花を一緒に見ようね。










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