Kiss away
九龍妖魔學園紀 取手×主
 放課後の体育館。バスケの練習もそろそろ終わりで、僕は皆と一緒に整理運動をしていた。視線を感じた方を見れば、はっちゃんと目が合う。何時の間にか来ていたはっちゃんとは、そうして時々目を合わせては、小さく笑みを交わしていた。顧問からの話が終わり、解散すると直ぐはっちゃんの元に向かう。

「お疲れ、かっちゃん!」

 君は明るく笑って、僕が首に掛けていたタオルの端を掴むと、優しく顔を拭いてくれた。

「やっぱりかっちゃん、カッコイイ。」

 何でもない事のようにさらりと言われたけれど、僕は少し恥ずかしい。

「…そ、そうかな…?」

「うん。」

 普通に頷かれて、照れながらも嬉しくて笑みが零れる。

「……有難う…。着替えてくるから、もう少し待っていてくれるかい…?」

「ん。外にいるよ。」

「ごめんね、直ぐに行くから…。」

 タオル越しに君の手を握る。この手が冷えないうちに行くから…待っていて。


 冷たく感じるようになった水で手と顔を洗い、急いで更衣室で着替えを済ませ、鞄を持つ。

「取手君!」

 更衣室を出た所で呼び止められ、走り出そうとしていた足を止めた。

「マネージャー…。どうしたんだい…?」

「あのね、この間、有難う。」

 この間…? ……あぁ、そういえば…。

「…いいよ。上手くいって、良かったね。」

「うん。取手君のお陰だよ。お礼言うの遅くなっちゃってゴメンね。本当に有難う。」

 マネージャーは嬉しそうに笑い、じゃあねと手を振って門に向かって行った。手を振り返した僕もはっちゃんの所に行こうとして、人影に気付く。

「かっちゃん。」

 はっちゃんが僕の方に歩いてきた。

「迎えに来ちゃった。帰ろ。」

 君の笑顔が、何時もと違うように感じたけれど…どこが、と言うのはよく分からなかった。


 他愛も無い話をしながら、寮に向かって歩く。何時も一緒に帰れる訳じゃないから…そんなささやかな事も、僕には嬉しい。

「今日はオムレツな?」

「いいのかい…? 楽しみにしているよ…。はっちゃんのオムレツ、一番好きなんだ…。」

「本当? じゃ、今日も頑張って美味しく作るぞ!」

 嬉しそうに気合いを入れる君が可愛いかったけれど、流石に、誰が見ているか分からない場所では何も出来ない。何時か…手を繋いで歩けたらいいな。


 寮に着いて、はっちゃんが食材とお風呂セットを取るのを持って、一緒に僕の部屋へ。

 今日の夕飯は、ソーセージを添えたオムレツと海藻サラダ、部屋から持ってきた肉じゃがとデザートのオレンジゼリー。ジャガイモは學園でこっそり育てている、はっちゃんの自作。卵は、僕にオムレツを作る時は、必ず前日にヨード卵を用意するようになった事も、知っている。

 炊けたご飯は僕がよそった。はっちゃん専用の箸も定位置に並べる。

「「いただきます。」」

 そう言って食べ始めた手料理は、本当に美味しくて…君の腕がまた上がった事を感じる。

「はっちゃんは…何を作っても、美味しいね。」

「いいオヨメさんになれちゃう?」

「…もう、なれているよ…?」

 少し勇気を出してそう言うと、はっちゃんは照れ笑いをしながら頷いて、サラダを口に運んだ。

「じゃあ、オヨメさんらしく、ダンナ様の背中流さなくちゃね。」

 それは一緒に入れば普通にしている事なのに…照れて小声で言う君が可愛くて…、僕までつられて照れてしまった。


 食べ終えて、二人並んでベッドに寄り掛かる。右手ははっちゃんと手を繋いで、左手は肩を抱き寄せて。話しながら、何気なく会話が途絶えた時にキス…。お互い顔を赤らめながら、また話し出して…その繰り返し。君の声を傍に感じながら…僕は幸せに浸る。


 はっちゃんの体には傷跡が多い。普通の学生なら、有り得ない程…沢山の場所と数…。だから自然と、人が少ない時間に行くようになった。それ迄はこうして時間を過ごす。

 僕としても、はっちゃんの体を見る人は少ない方がいい。…本当は…誰にも見せたくないのだけれど…。


「かっちゃん、女子にモテそう。」

「…え…? …そんな事は無いと思うけど……。どうしたんだい、急に…?」

 急な質問に首を傾げると、はっちゃんは言葉を濁して俯いた。

「ん…何となく…。」

「はっちゃん…、知りたいよ……。」

 俯いた頭に額を擦り寄せ、握った手に力を込める。

「…ユニフォームのかっちゃん、カッコ良くて。プレーも凄いし。なのに、綺麗に伸びた手足が白いから、心配で気になったり…とにかく目がいくんだ。更衣室の前で、マネージャーの子と話してただろ? 何話してたかは聞いてないけど…嬉しそうにかっちゃんに手を振ってたから、何か…他の女子もあんな風にかっちゃんと話すのかなって。」

「…あれは、マネージャーが両想いになる手伝いを少ししたから、お礼を言われたんだ。…はっちゃん…気にしてくれたのかい…?」

「あ、や、その、ちょっと気になったって言うか…。」

 俯いたまま慌てるはっちゃんの顔を覗き込む。キスをして、抱きしめた。

「…有難う。そういう事…気にしてるのは、僕だけだと思っていたよ…。君の隣には何時も誰かがいて…皆守君が傍にいて…本当は僕が一番、傍に居たいのに…。」

「かっちゃん…。」

 どうしたら…上手く伝わるだろう。どんな言葉なら、はっちゃんに分かって貰えるかな…?

「…心配しなくても僕は…はっちゃんしか見ていないよ。何時も、自分で呆れるくらい…はっちゃんの事を想っているんだよ…。」

「俺も、かっちゃんの事ばっかり考えてるよ。クラス違うから、昼休みと遺跡くらいしか一緒にいられないけど…。でも、甲太郎に病的って言われるくらい、かっちゃん一筋だよ。…好きだからね?」

 最後の一言は、僕と同じもどかしさを感じているように思えて…泣きそうなその目は、僕を好きだと…真剣に訴えていて。

 …言葉なんかでは、足りない。

 僕は、はっちゃんに唇を重ねた。何度も角度を変えて…その度に…はっちゃんの咥内を味わう。漏れる吐息も、小さな喘ぎも、絡んでくる舌も…全てが可愛いくて、気を抜いたら僕が翻弄されそうになる。

 そのままうなじに舌を這わせると、はっちゃんの体がピクリと震えた。キスの間にボタンを外した学ランの胸元を広げ、普段は見えない場所をキツく吸い上げる。

「……ッ…!」

 僕の肩に置かれたはっちゃんの指先に力がこもり、唇を離すと、赤く咲いたそれを確認するように触れた。見つめ合ったはっちゃんの瞳が、満足げに潤んでいて…嬉しくなる。僕の首に回された手に引き寄せられ…頬笑み合ったまま、もう一度深くキス。

 僕もはっちゃんも…不安になる必要なんて、無いんだね。それでも、不安になってしまった時は…こうして想いを重ねよう…。










プラウザを閉じてお戻り下さい。