どれ位一緒にいるのか覚えてる?
九龍妖魔學園紀 皆守×主
天香學園の仕事を終えてから数年がたったある日、一時的に滞在する事になったマンションのリビングにあったカレンダーを見た九龍はある事に気がついた。
「ねぇ、こーちゃん」
「ん?」
「オレたちさ、知り合ってからどれ位一緒にいるか覚えてる?」
「なんだよ、急に」
「いーじゃん。答えてよ」
「あー・・・。高校3年の時からだから・・・」
備え付けのソファに腰掛けてつまらなそうにテレビを見ていた親友、もといバディである皆守甲太郎はそんな九龍の問いかけに眉を寄せた。
けれど、きちんと思い出そうとしてくれるあたり何年経っても彼の付き合いの良さは変わらないのかもしれない。
九龍は皆守の隣、ただし九龍は床に座り込んでソファに片肘を乗せて彼を見上げた。
「えーと・・・7年、か?」
指折り数えて出した答えにやっぱり、と九龍は小さく笑った。
「ハズレー。違います!」
「そんな訳ないだろ。俺達が18の時からの付き合いなんだから7年だろう?」
「よくカレンダーを見てよ」
言えば、素直にカレンダーに視線を向けた皆守はそれでもしばし首をかしげているようだった。
「気がつかない?」
「・・・というか、今日何日だ?」
「・・・そこからですか」
気の抜けるような問いかけに肩を落としつつも、仕方がないのかもしれないと苦笑をこぼす。
なにせ年中遺跡に篭りっきりで忙しい毎日を過ごしてきた二人は、久々の長期休暇を与えられたのだ。
しばらくは日付や曜日を気にしないで過ごしたいと思う気持ちも強くて当然である。
九龍とてたまたま気がついただけで、もし今日カレンダーを見なければ気がつかずにいたかもしれない。
そんな状態なのだ。皆守を責めるつもりはないけれど、やはり気がついてほしかったと拗ねる気持ちも生まれてしまう。
「今日は9月21日だよ」
「・・・・・・・・・・・・何かあったか?」
「ちょっ・・・それはないんじゃない!?」
まさかの返答に今度こそうなだれた九龍は、今日という日を忘れた皆守を恨みがましく見つめた。
「な、なんだよ。重要なことか?」
「や・・・そりゃね、人によっては何でもない日だろうけどさ、こーちゃんには覚えておいてほしかったんだけどなぁ」
「・・・おまえの誕生日じゃないよな?」
あまりにも悲壮感たっぷりに言ったからか、皆守は少し慌てた様子で記憶を探っているようだった。
「ベリーズの独立記念日? それとも国際平和デーか?」
「ぶっ。・・・あ、合ってるけど違う!」
「!」
「オレが言っているのはそんな世界規模じゃないってば」
皆守の博識っぷりに感心すると同時にずれた回答に笑いが込み上げてきた。
「じゃあなんだよ。もったいぶらずに教えてくれてもいいだろ」
盛大に笑ったせいか、皆守は少し拗ねたように眉を寄せてこちらをにらみつける。
「本当に覚えてないの?」
「・・・ああ」
笑いすぎて目じりにたまった涙をぬぐいつつ聞くと、彼は不機嫌そうにだが同時に困った様子も覗かせていて、これ以上はかわいそうかと思った九龍は素直に何の日なのかを告げることにした。
「今日はね、オレが天香學園に転校してきた日なんだよ」
「・・・は?」
「え、なにその反応」
あまりにも間の抜けた反応に、思わず問うと皆守は慌てたように「いや・・・」と言葉を濁した。
その様子は気に入らないけれど、すぐさま皆守の表情に郷愁が浮かんだのでまあいいかと思ってしまう。
懐かしく思うのは九龍も同じだから。
「そうか・・・今日だったのか」
改めて言われると少しだけくすぐったい気持ちになる。
「そうだよ。だから今日で8年の付き合いになるんだ。・・・こーちゃんと親友になって8年、だよ」
8年前、忘れることなど出来ない濃密な時間を過ごした3ヶ月。
どんな思惑があって近づいて来たにせよ、ともに過ごし困難を乗り越えてきたあの時間で積み重ねられた信頼は、嘘じゃなかった。
だからこそこうして今も一緒にいる。
一緒にいて欲しいと、望んだ。
「・・・親友、か」
ぽつりと呟かれた言葉に、九龍は皆守を見上げた。
そこにあったのはあの學園を去ってからよく見かけるようになった穏やかな笑み。
あの頃はニヒルな笑みしか見たことがなかっただけに、その笑顔を見るといつも嬉しくなってしまう。
「こーちゃん、これからもよろしくね」
「ああ。・・・こっちこそ、よろしく」
言えば、皆守は九龍の一番好きな笑顔を浮かべて頷いた。
(友愛と恋愛の狭間に10のお題)
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