ふわふわとドキドキと戸惑い。
九龍妖魔學園紀 皆守×主
あ、れ・・・?
九龍はふいにドキドキと胸が高鳴り始めて戸惑った。
こんな風にじっと見つめてくる皆守は珍しい。
どうしたのだろうと思いながらも、頬に手を触れさせたまま口元を綻ばせた皆守の優しい笑顔に息を呑んだ。
「こー・・・ちゃん?」
声が擦れる。
なんでそんな目で見つめてくるのだろうと目を見開いた。
皆守はそんな九龍に気がついた様子もなく、頬から手を離すとソファから腰を上げた。
「そろそろ腹減ってきたな。カレーでも食うか」
「う、うん」
「ん? どうした?」
「う、ううんっ。なんでも!」
「? ・・・・・・変なヤツだな」
クスリと笑うとキッチンへと向かう。
そんな後姿を見送って、九龍はいまだ治まらぬ鼓動を持て余して頭を垂れた。
「な、なに? これ・・・・・・」
なんでこんなに動悸が激しいんだ?
胸元を押さえるとドッドッドッドッと、日常生活ではまずありえない速度で動く心臓に驚く。
今まで経験したことのないようなそわそわと落ち着かない気分。
「お、オレっ。ちょっと散歩してくる!」
「おい、九龍!?」
気がついた時にはそういい捨ててマンションを飛び出していた。
それが功をそうしたのか動悸はいつしか治まり、九龍は近くのガードレールに腰を下ろすと大きく息を吐いた。
「なんだったんだろ、さっきの」
見上げれば自分達が住んでいるマンションが見える。
連鎖的に思い浮かんだ皆守の顔になぜが鼓動が跳ねた。
「うぐぐっ・・・」
頬が熱い。
傍にいないのに、思い出しただけでこんなにもドキドキするなんておかしい。
原因は皆守なのは分かっているのに、なぜ皆守が原因でこうなるのかが分からない。
口元を歪めてうめき声をもらして。はたから見たらきっと危ない人なんだろうなと落胆すれば、ポケットの携帯電話がブルブルと震えた。
電話機能しか使わないそれの存在を知るものは限られている。名前を確認すれば案の定、皆守甲太郎からだった。
今、もっとも避けたい人間からの呼び出しに、出るかどうかと迷っていたがあんな風に飛び出したのだから心配させたかもしれないと思い切って通話ボタンを押した。
「・・・はい」
『俺だけど』
「うん」
『メシはどうするんだ?』
「え?」
『カレー』
「あ・・・。えーと・・・」
食べたい。でも、今はちょっと距離を起きたい気持ちもある。
『すぐ戻るのか?』
「え?」
『散歩』
「あー! 散歩ねっ。うん。あー・・・」
そういえば散歩といって飛び出してきたんだと今さら思い出した。
『・・・九龍、なにかあったのか?』
ふいに真剣さを含んだ声で問われて、九龍はしばし沈黙した。
なにかあったからではない。ただ、その皆守の声の真剣さに驚いたのだ。
『九龍?』
「な、ない! 何もないよ!」
反射的に精一杯首を振って否定をした。
「すぐに帰るから! 一緒に、カレー食べようっ。ね?」
『・・・・・・・・・・』
「・・・こーちゃん?」
『いや。じゃ、用意して待っているからな』
プツ。と通話が切れて、九龍は溜め込んでいた息を一気に吐き出す。
皆守が、自分が思っているよりも心配しているのかもしれないと思った瞬間、すぐに帰るかどうか迷っていた気持ちが消えて、避けたい気持ちからすぐに会いたい気持ちへと変化してしまった。
「なんだろう、これ・・・」
とくとくと早めに動く鼓動。身を包む高揚感が消えない。
遺跡に挑んでいる訳ではないのに、なんでこんなにも興奮している状態なんだろうと首をかしげた。
今まで抱いたことのない気持ちを、皆守に対して抱き始めているのは確かみたいだと思いながら、それよりも今は皆守のもとへと足を向ける。
「今度やっちーに相談してみようかなー?」
やっちー元気かなー?
元気な笑顔を思い出せば、自然と気分がうきうきとしてきた。
先ほどまで渦巻いていた戸惑いが彼女の存在でひと時薄れたものの、再び脳内が混乱に陥るまであと少し。
安らぎはほんの少しの間だけなのだった。
(友愛と恋愛の狭間に10のお題)
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