自然に笑い合える一番の親友。
九龍妖魔學園紀 皆守×主
 九龍の笑顔は出会ってから何一つ変わらない。
 初めて出会ったときから彼は曇りない笑顔を皆守に向けていた。
 後ろ暗い事を背負って近づいたというのに、微塵も疑いの目を向けずに、無邪気に懐いてきては周囲を巻き込んで騒動を巻き起こす。
 およそ宝探し屋≪トレジャーハンター≫らしくないヤツだ。と、思っていた。遺跡に入る前は。

 遺跡に一歩踏み込めば、九龍は地上で向けていた表情を一転させ、本当に同一人物かと思わせるくらい鋭い目をしていた。
 だが、謎解きになれば子供のように無邪気で、面白いくらいコロコロと表情を変えるこの男がどれだけの顔を持っているのかと興味が湧けば、九龍と距離を取ることが出来なくなって結局は最後まで付き合う事になった。

 悲壮な覚悟をもってして己の正体を告白したというのに、ためらいもなく九龍にボコボコにされた事は一生忘れられないだろう。
 あれだけボコボコにされたからこそ、今でもこうして付き合ってこれたといっても過言ではないのだが。
 あそこで手加減されて、同情されて、可哀相だと嘆かれたものなら、きっと、ここにはいない。
 本気で、おまえはバカだと殴りつけてきた九龍だからこそ、共にいる。

「どうしたの?」
「ん?」
「なんかぼーっとしてない?」
「いいだろ、ぼーっとしてても。休みなんだし」
「まぁ・・・そうだけど」

 よほど変な顔をしていたのか、九龍が心配そうに眉を寄せた。
 久しぶりの長期休暇。
 九龍のバディとして共に世界中の遺跡に潜る皆守は、こうして仮の住まいを同じくする事が常で、必然的に九龍と行動を共にすることが多い。

 九龍が一足先に学園を出て、皆守は卒業してから正式に彼のバディになったのだが、それ以来ずっと、こうして心配をする。不安げな顔をする。
 それは、どうしてなのか。
 ずっと気になって、けれど日々の忙しさに忘れがちな疑問だった。

 いつだったか、どうしてそんな顔をするんだと尋ねたら、逆にそんな顔ってどんな顔?と、不思議そうな顔で返されてしまった事がある。
 どうやら本人は無意識なようで、そうなると皆守もどうしたらいいのか分からなくなった。


 皆守は隣に座る九龍の頬に手を伸ばした。
 指先に、さらりとした肌の感触。

「こーちゃん?」

 不思議そうに首をかしげ、それでも皆守がするままにおとなしくしている。
 自分でも、どうしてこんな事をしているのか分からない。
 けれど、九龍にはずっと明るい顔で笑っていてほしいと思う気持ちが引き起こしている事だけは分かる。

 何の気兼ねなしに自然と笑い合える一番の親友だから。

 手のひらで頬を包み、親指で目元をなぞって。
 痛いほど見つめてくる九龍の目を、同じように見つめて。

 彼の中の、無意識の不安がなくなればいい。

 そう願いながら、皆守は笑った。










(友愛と恋愛の狭間に10のお題)
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