翠露
九龍妖魔學園紀 取手×主
 二人だけの音楽室。俺は毎日、ピアノから横に少し離れた窓際に椅子を運んで座る。それが定位置。ピアノを弾く彼がよく見えるように。

 椅子に寄り掛かりながら、時々ウトウトしてる俺と。そんな俺に頬笑みながら、ピアノを弾くかっちゃん。眠い日に子守歌のような曲が多いのは、遺跡探索で疲れてる俺の体を休ませようとしてるからだって、今は知ってる。

 最初は分からなくて、何時だったか聞いた事があった。

「俺は心地良いけど、来ても寝てるだけじゃ、かっちゃんはつまんない?」

 そしたらかっちゃんは、少し照れた顔で答えた。

「寝顔を見れるから良いよ。」

 俺を起こすかっちゃんの声が好き。遠慮がちに触れる指先が好き。目を開けた時に見れる笑顔が好き。だから昼休みが好き。のんびり優しい、二人だけの時間。

 今日もウトウトしていら曲が終わって、暫く間があった。何時もなら次の曲が始まるのに、近付く足音。何だろう? 眠くてその侭動かずにいたら、少し衣擦れの音がして、膝に微かな重みが掛かった。

 足の上にのせていた手の甲に、かっちゃんの手が重なって。躊躇いがちに手の平に触れた柔らかな感触は、かっちゃんの頬で。だから足の上を流れる軽い感触は、かっちゃんの髪だ。布越しに伝わるぬくもりの正体に気付いて、内心慌てる。これって、しゃがむかっちゃんに膝枕してる状態だよね?

 ねぇ、かっちゃん? かっちゃんの中で俺は、どんな意味で特別?

 どうすればいいか分からなくてその侭寝たフリをしていたら、かっちゃんが頭を離した。寂しいな、と思った時。左の頬に、かっちゃんの手の平が触れた。優しく前髪を梳いて、また頬に触れる。それから、右の頬に柔らかな感触。少し湿った、かっちゃんの頬より柔らかくて熱いそれは、直ぐに離れた。それが何だったのかを最初に理解した体が、心臓を跳ねさせる。そんな俺にはおかまいなく、立ち上がってピアノに戻ったかっちゃんは、また優しい曲を弾き始めた。

 でも、薄目を開けて盗み見たかっちゃんの顔は真っ赤だった。嬉しくてニヤけそうな口元を必死で結ぶ。俺達、同じ気持ちなんだ。って言うか……かっちゃん、寝込みを襲ったりするんだね? そっちの方が驚きかも。

 起きるタイミングにかなり悩むから、今日は寝れそうにないけど、やっぱり起こして貰おう。寝ぼけたふりして抱きついたら、抱きしめ返してくれるかな……?

 この想いに応えてくれるなら、何時か学校を離れても、かっちゃんを離さない。別の道を行きながら手を繋ぎ続ける未来を、俺と一緒に信じて。

 それから……今度は起きてる時に同じ事してね、かっちゃん。










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