月を抱いて
九龍妖魔學園紀 皆守×主
 空では少し欠けた月が、それでも堂々と輝いていた。遺跡から地上に上がると、何故か何時も月を仰ぎ見る。

 闇の中で光を求めるように。心の何処かで欲しがるそれは決してこの手に届きはしないのだと、言い聞かせるように。


 帰宅前に買ってあったカレーパンを夜食代わりに食べている間、九龍は達成した依頼品とそれとは関係無く入手した物とを並べてニヤけていた。今日は何時になく大量だ。

「凄い凄〜い。」

 …何か、ウェーブ髪の眼鏡顔が重なって見えたのは気の所為か? いくら個性強い奴らが多いからって、変な影響受けるなよ?

「…いいから早く終わらせろよ。」

 ベッドの上で伸びをし、アロマに火を付ける。

「感動が少ないなぁ。眠いなら先に寝ていいよ?」

「食い足りねぇ。」

「じゃ、後で何か調合するから待ってて。」

「不味そうだから調合って言うな…。」

「だって特記事項に“花嫁修業中”って書けないんだぜ。折角の努力が主張出来無いなんておかしくない?」

「…修業どころか努力もして無ぇだろ。」

「そんな事は無いぞ甲ちゃん! 俺の技術と生活力は日々上がってる!」

 くだらない会話をしながらも、九龍の手は宝を振り分け、H.A.N.T.を弄っている。静かだったのは、武器の手入れをしている時だけだ。


 騒がしい奴だと呆れた筈が、何時ものように傍観するだけでは済まなくなり、気付けばそれを楽しむ自分がいた。何でもない事のように俺の心に入り込んで、今じゃ一番真ん中に居座っている。

 だから、男同士なのに『恋人』なんてモンになったんだろう。互いが互いの真ん中だと、気付いたから。


「終わった〜。甲ちゃん、何食べたい?」

 H.A.N.T.を閉じた九龍が漸く俺の方を向く。

「明日は休みだよな。」

「え? うん。」

 俺はベッドから降りて九龍の背後に回り、抱きしめると耳朶を舐めた。

「そんなワケでお前が食いたい。」

「は? ちょっ!」

 耳の刺激にピクリと肩を揺らす九龍が俺の腕をほどこうとするが、勿論それは許さない。

「諦めろ。」

「暫く無しって言ったじゃん! て言うか理由になってないし!」

「明日休みなら、腰が痛くなっても問題無いだろ? この間はちょっと無理させちまったからな。」

「かなり、だろ! …んっ。」

 喚く赤い顔を横向きにさせ、唇を奪う。舌を捕まえて貪ると、九龍の体から力が抜けていった。服の上から胸の突起を摘みながら、わざと濡れた音をたてて耳の下から肩口へ項を舐めていく。

「ダメ……だっ…ぁ…て…あぁっ……甲ちゃ…。」

「喘いでるくせに何がダメだって? ああ、服の上からじゃダメだって事か。」

 服の下に手を潜り込ませ、尖ったそれを指先で弄る。

「違…んッ……。」

 俺の腕を掴む九龍の手は、只添えられているだけだ。今度自分でさせてみるか…こっちと合わせて。

「んあっ。」

 下肢に手を伸ばして膨らみ始めたそこを掴むと、九龍の体が大きく揺れた。それを撫で回すように揉んでやる。

「キツいだろ? チャック下ろしたら楽だぞ。」

「やだ……甲ちゃ…っあん!」

「ほらな…またキツくなっただろ? 下ろしちまえよ。もっと良くなりたいだろ? それとも徹底的にじらされたいか?」

「う…………バカ太郎……。」

 真っ赤になりながら、九龍がベルトを外し、前をくつろげる。もう嫌だと言う目で見てくる九龍に、俺はニヤリと笑い返した。

「それでいいのか? 脱がないと、ちゃんと触れないぜ。」

「チャック下ろすだけって言ったじゃんか。」

「それで済むと思うようじゃ、まだまだ甘いな。」

「そりゃ…それで済んだ事なんて無いけど……でもっ。」

 潤んだ瞳で眉をしかめた九龍も可愛いが、嫌だと言いながら自分の言う事を聞く姿はもっと可愛い。九龍にそんな事をさせられるのは俺しかいないと思う事で満足する独占欲。

「自分から脱いでオネダリ出来たら、今日はもう言わなくてもいいぜ。どうする?」

 九龍はあからさまに疑いの眼差しを俺に向ける。このテの言葉が信用されないのは、今迄その半分以上が嘘になってきたからだ。

「言えたら、今日は本当に何時もより優しくするぜ。…ま、強引にシテ欲しいなら言わなくても構わねぇし。」

 胸の指と、下着越しの下肢の手を休み無く動かし、声を上げて身を捩らせる九龍を楽しむ。感じてるのは九龍だけじゃない。この声、この反応、全てが俺の欲望に拍車をかける。

「どうする、九龍…?」

 耳元でわざと低い声を出すと、九龍は観念したように目を閉じた。

「………絶対だぞ…。」

 俯いて表情を隠し、九龍は躊躇いがちに下着ごと服を脱いだ。顔を隠しても、耳まで赤いのがバレバレで可愛い。

 九龍の体を煽っていた俺の両手に手の平を重ね、羞恥に震える声で言った。

「…ココ、何時もみたいに、もっとヨクして…。俺の全部、甲ちゃんでいっぱいに満たして…?」

 ねだる声。両手に押し付けられてくる体。欲望がぞくりと背を掛け、下半身の熱を強めた。

 俺の前でだけ晒す淫らさも、甘えた声も、全てが愛しい。めちゃくちゃになる程、お前を抱いて、俺で満たしたい。

「いいぜ。顔見せてくれよ、九龍…。」

 髪にキスをする声が少し掠れる。照れを抑えてゆっくり俺を見上げてくる九龍が、欲しくてたまらない。

「次は、甲ちゃんだぞ…。」

 体を重ねる時によく見せる、艶のある笑みが俺を呼ぶ。それがどんなに俺を挑発しているか、知りもしないで。苛め泣かすのもいいが…約束通り、今日は甘く狂わせよう。

「お前の全てを埋め尽くしてやるよ。」

 優しく舌を絡め、合間に好きだと囁きあう。手の中で密を零す九龍を追い立てるように上下に抜きながら、腕ごと包むようにしっかりと抱きしめた。


 九龍の腕は、何時も救いを求める者の為にある。だから今だけは、それを閉じ込めよう。俺だけのお前になるように。










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