With you
九龍妖魔學園紀 取手×主
行かないで


そう言ったら君は


変わらず傍に、居てくれるかい…?


……有り得ない


君は、君の道を行く


誰が何を言っても


きっと僕は


離れて行く君の後姿を


ただ…見送るだけ…


泣いて縋ってしまいそうな


惨めな僕を


…どうか…


笑わないでほしい…












 生徒会主催の夜会。どんな事が起こるか、何となく知っていた。はっちゃんとも色々話していたから、来るのも知っていたけれど…遠目に君を見付けた時は、やっぱり嬉しくて。躊躇ながらも話し掛ければ、真っ先に返ってくるのは、柔らかな雰囲気を纏う笑顔。それから、嬉しそうに僕を呼ぶ声。仮面が顔の半分を覆っていても、喜んでくれているのが分かる。

 何時もそんな風に僕を迎えてくれるのは、どうしてだろう…。

 ピアノを弾く役目があるから、一緒には居られなかったけれど。事が起こって部屋から走り出て行くのを見て、神の力を授かったと言う彼が、次に救われるんだろうと思ったよ。だから僕も何か力になりたいと…騒然とする会場を抜け出して後を追った。

「はっちゃん。」

 呼び掛けに振り返った君は、使命感にも似た思いを瞳に宿らせていた。自分の為、そして闇に囚われた誰かの為に遺跡に挑む君は、傷付く事すら厭わない。

「彼も…トト君も、きっと救いを求めている。はっちゃんを待っているだろう。でも僕は…、はっちゃんが心配なんだ。僕に出来る事があるなら、何時でも声を掛けてほしい。」

 …違う。こんな言葉じゃ伝わらない。伝えきれない。

「うん。サンキュ、かっちゃん。頼りにしてるぜ。」

 何時もの笑顔。皆に見せる優しい顔。僕はね?はっちゃん。怪我だけじゃなく、君の心も心配なんだよ。そうやって笑う君の、本当の状態が分からないから…。どんな怪我をしても、どんなに厳しい状況になっても、それを隠すから…。皆を安心させる為に笑ってみせる、そんな強い君が心配なんだ。

 僕は。僕だけは。君の本当の姿を見ていたい。少しでも、支えになりたいんだ。

「…かっちゃん…。」

 はっちゃんが、困った様な顔で僕を呼んだ。

「その目、反則。」

 伸ばされた手が、僕の腕を掴む。もたれるようにそっと寄せられた体を、ドキドキしながら抱きしめた。僕の肩に頭を預けるはっちゃんから、微かに優しい香りがする。

「俺さ、かっちゃんと居ると…『大丈夫』って笑うの、忘れそうだよ。皆に対するのと同じ顔、し辛い。」

「はっちゃん…。いいんだ、素の君で。僕じゃ頼りないだろうけど…はっちゃんが少しでも楽になるよう、強くなる。だから…一人で頑張りすぎないでくれないか…?」

 すると、まるで返事のように、はっちゃんが強く抱き付いてきた。

「…じゃ、一緒に行こ?」

「ああ。直ぐに支度をしよう。」

「かっちゃんの明日からの昼休みも、俺の為にあるんだろ?」

「勿論。音楽室で待っているよ…。」

「怪我したら夜中過ぎでも押し掛けるぞ?」

「…おいで。治るまで、毎日手当てをしてあげよう。」

 そう答えながら、抱きしめる腕に力を込めた。僕は弱いから…、強い君には、必要無いかもしれない。でも、君を守りたいんだ。それが僕のエゴだとしても…。

「かっちゃん…。」

「何だい?」

「頼りにしてるからな、かっちゃん。どんな時も、強制連行だ。」

 はっちゃんが、腕の中から僕を見上げて笑った。暗い中でも分かる、少し…照れた笑み。顔の近さにドキリとした。

「ああ。何時でも、何処にでも…僕を連れていって欲しい。これからも…ずっと…。」

 少しだけ君は泣きそうな顔をして、また僕に抱き付いた。

 何時だったか…君は、特別な人は作らないと言っていたね。その時の君は、珍しく、とても寂しそうだった…。

 秘宝を見付けたら、君は…この學園から居なくなる…。次の行き先は、その時にならなければ分からない。…だから、だろう…?

「…っご、ごめんね、はっちゃん。困らせるつもりは無いんだ……。」

 思わず漏れてしまった本音に慌てて謝ると、はっちゃんは顔を上げて、真面目な顔で僕を見つめた。

「かっちゃんの夢は、ピアニストだろ?」

「…ああ。そうだよね…すまない、変な事を言ってしまって…。」

「違うよ、かっちゃん。」

 俯く僕に、はっちゃんは笑った。

「俺が何処に居てもかっちゃんの名前が聞けるくらいの、世界的ピアニストになれよ。そしたら、かっちゃんの公演が終わる度に、遺跡まで誘拐する。」

「はっちゃん……本当にいいのかい? これからも、傍に居ても…?」

 嬉しくて…本当に嬉しくて、声が震えてしまった。口許を押さえた僕の手を、はっちゃんがやんわりと剥がして両手で包む。

「一緒に居る為に少し会えなくなっても…俺の専属バディはかっちゃんだけだ。かっちゃんの綺麗な指は、俺が絶対守るから。」

 極上の笑みで言い切るはっちゃんの頬に、空いていた手をあてた。自然に顔を近付け合う。きっと誰も見た事の無いこの表情を、月にさえ隠すように。

「…僕は君の笑顔を守ろう。一生を掛けて。」

 唇の上で囁くと、君は小さく頷いて僕の手を握り締めた。そっと重ねた唇。震えているのはどちらだろう。

 僕達は、唇の震えが消えるまで、その熱を求め合った。










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