幼馴染みな僕ら
短編
「オレさ、トモのこと好きなんだけど」

「え?」

 いつもの時間。いつも通りの学校帰り。

 智之は幼馴染の縁と自宅の自室で宿題を片付けていた。

 なんとなく視線を感じて顔を上げれば、にっこりスマイルの幼馴染の視線にぶつかり、首をかしげたところでの上の発言。

「トモはさ、オレの事好き?」

「ええ?」

「ね、好き?」

「あの・・・」

 聞かれた言葉の意味が分からなくて戸惑う。

 けれど縁はマイペースに智之に問いつづけた。

「それとも嫌い?」

「き、嫌いじゃないけど・・・」

「じゃあ、好き?」

「あ・・・うん。好き、かな?」

 幼い頃からずっと一緒にいた幼馴染を嫌いなわけがない。もちろん『好き』なのだが。

「ほんと! じゃ、オレたちこれから恋人だな」

「え、ええええっ! こ、恋人っ!?」

 予想外の展開に、呆然と目を見開く。だが、そんな智之の様子など気にも掛けず、機嫌よさげに肩肘をテーブルに付いてその手のひらに頬をのせた縁。

「うん。だって、トモはオレの事好きなんでしょ?」

「す、好きだけどっ! でもっ」

「じゃ、問題ないよね」

「も、問題・・・」

 あまりにはっきり断言され、智之は強く反論する事ができずたじろいだ。

 真っ直ぐに見つめてくる縁とは違い、視線を彷徨わせて困り果てた様子をみせる智之に、幼馴染みは有無を言わせぬ雰囲気でにっこりと笑った。

「ないよね」

「・・・・・・はい」

 なぜだろう。肯定しか返答が用意されていなかったような気がするのは。

 智之はうなだれるように頷いてしまったのだった。










「ちょ・・・ね」

 勉強机を押しのけられて、抱き締められる体。

 寄せられる唇に彼がなにをしようとしているのかは明白で、智之は慌てて腕を突っぱねるが、両手をやんわりと捕まれて顔を覗き込まれて鼓動が高鳴る。

 こんなのはおかしいと思いながらその瞳から目が離せない。

「ね、させて?」

「で、でも・・・」

「オレ達恋人でしょ?」

「そ、それは・・・」

「さっき、OKしてくれたよね? 違う?」

「ち、違わないけど・・・・・・」

「好き、トモ。好きだよ。柔らかい髪も、大きくてきれいな目も。もう、ずっと前からトモが好きだった」

「・・・・・・・・・・・・・」

 甘い囁きにくらくらとめまいがする。

 吐息が唇にかかる。

「トモ・・・」

 微かに唇が触れた。

「っ」

 後はもう耐え切れなくなって目をきつく瞑る。

「トモ、」

 しっかりと、唇が重なった。

 啄ばむように何度も触れ合う。

 優しく、暖かく、愛しい感情が智之の心を溶かし、固く結んだままの唇もまたほどける。

 柔らかく緩んだ唇を何度となく食まれ、時折感じる痛みが背筋を痺れさせた。

「ん・・・」

 知らず智之も縁の唇を求めるように啄ばみ始めると、彼は智之が僅かに唇を開くタイミングに合わせて舌を忍ばせてさらに深く貪る。

「ふぁっ。あ・・・んっ」

 舌が絡まり、唾液が混ざり合う音が耳の奥から響く。

 じわりじわりと体の芯が熱くなる。

 気持ちよくて、何も考えられなくなって、無我夢中で舌をすり合わせて。

 ちゅっと音を立てて二人の唇が離れた頃には、互いの息は上がっていた。

「トモ」

 掠れた声に朦朧とする意識のまま視線を向ければ、妙に切羽詰ったような縁の瞳。

 熱っぽい視線に首をかしげてぼんやりと眺めていると、また一つ軽いキス。

「トモ、オレもう駄目」

「・・・え?」

 なにが駄目なんだろうと、働かない頭で繰り返しているうちにひょいっと体を抱き上げられて、そこではっきりと我に返った。

「え! ちょっ・・・縁? なにっ・・・って、うわっ」

 わたわたとしているうちに壁際のベッドに下ろされて、続いて覆いかぶさってくる縁に彼がいったいなにを
しようとしているのかを今さらながらに察する。

「ゆ、縁・・・。本気?」

 見たこともない幼馴染みの欲に染まった顔に恐れを抱く。

「本気」

「ぼ、ぼくたち男同士だよ?」

「だから?」

「だからって・・・ちょっ」

 同性である事を意に介さず、首筋に顔を寄せられてびくりと体が震えた。

「トモの親だって男同士じゃん。こういう事、アリだって知ってるんだろ?」

「それは・・・」

 実は智之の両親は二人とも男だったりする。

 正しくは育ての親は、なのだが。

 本当の両親は事故で亡くなり、まだ幼かった智之を引き取ったのが父の弟。つまり叔父なのだが、その叔父の恋人は男。しかもしっかり養子縁組を交わして事実上の婚姻関係を結んでいた。

 その為、幼い頃から同性同士の婚姻を不思議に思うどころか自然と受け入れられるようになっていた智之は、だからこそ今回の縁の告白に嫌悪感なく聞き入れる事ができたのである。

 確かに、真夜中にふいに目覚めた時、二人の父の部屋から聞いてはならない『声』を聞いてしまった事もあったし、それがどういった行為の中で発せられるものなのか成長する過程の中で知ってもいた。

 けれど、具体的にどうするのかなんて知らない。

 しかも、まさか自分がそんな状況になるなんて今日まで思いもしなかったのだ。

「トモ、さっきのキスを嫌がらなかったよね? オレとこういう事するのは嫌じゃないんでしょ?」

「う・・・」

「それとも、怖いの?」

「・・・・・・・・・・・・」

 戸惑ったような表情で押し黙ったまま何も言わない智之に優しくキスの雨を降らす。

「だったら、ね。試してみようよ」

「・・・た、試す?」

「そ。トモがどうしても嫌って言うところでやめるから。ねぇ、してみよう?」

「っ・・・!」

 囁くように耳元に乞われ、脳内がしびれる。欲情に滲んだ声に理性がとろけそうな錯覚を起こす。

「トモ・・・」

 耳の裏側に軽く吸い付かれて、耳朶を噛まれて思考が鈍る。

「ぁ・・・っ」

「トモ・・・トモ、大好き」

 甘い声。

 優しい眼差しを受けてついに智之は目を閉じて縁に身を預けてしまったのだった。










「あっ。あぁっ・・・んっ」

 縁の唇が智之の薄い胸を口付ける。

 小さな粒を舌先で撫でるととたんにぷくりと膨らんでその存在を主張した。

「やっ・・・ぁんっ!」

 先端をつつき、捏ねるように舐め上げ、吸い上げられて、どんどん芯を持つそれを甘噛みする。

「ぁ・・・。ぁあっ」

 ぎゅうっとシーツを掴んで快感に耐えるが、縁は逆に引き出そうと愛撫した。

 せわしない呼吸。

 もう苦しくてしょうがないのに、どうしてか智之は縁に制止の声を上げる事ができなかった。

「ん・・・。んんっ・・・はっ。ぁんっ」

 片方ばかり弄られて、放っておかれているもう片方が疼く。

「ゆ・・・りっ」

 懇願するように名を呼べば、縁はようやく触れていなかった方を口に含む。

「んっ・・・ぁ。あっ。あっ。だめっ。そんなっ・・・んっ」

 いやらしく舌を絡められながら、濡れていやらしく光る胸の粒を指で激しく弄られて、イヤイヤと首を振る。

「・・・やめる?」

 意地悪く聞いてくる縁を潤んだ瞳のまま睨み付けると、小さく笑ってまた再開した。

 ちゅぱっと音を立てながら胸から顔を離した縁は、快楽で汗の滲む智之の体を優しいタッチで触れていく。

「あっ。・・・んっ」

 ぴくりぴくりと反応を返す場所を何度となく触れ、唇でも触れてゆく。やがて、もぞもぞと腰を揺らす智之の切羽詰った状況をみると欲の滲んだ笑みを浮かべた。

「ね。トモ。トモ? こっちを向いて?」

 硬く目を瞑って与えられる刺激に耐えていた智之はうっすらと瞼をあけた。

「トモ、見てて?」

「・・・え? っあ、あああぁっ!」

 何を?と問う前に、与えられた視覚と感覚の強烈な刺激に仰け反った。

 熱い舌が、智之自身を包む。

「あっ。・・・。・・・ああっっ!! やっ! だめっ。ゆか・・・りっ!!!」

 手と舌と視線と、智之を犯す。

 強い快楽に、もう思考がまとまらない。

「やっ。あっあっあっ! んぁあっ!」

 口を放してくれと懇願する前に堪えきれず吐き出した智之は、解放の脱力感にぐったりと横たわっていた。

「気持ちよかった?」

「ん・・・」

 短く息を吐く様子を見ながら、口内で受け止めた智之の欲を手に吐き出して、太ももの奥へと指を忍ばせる。

「! ゆかっ」

 思いもよらない場所に縁の指が触れ、いっきに意識がはっきりした智之は混乱したようにじたばたと暴れだした。

 それも力が入っていないものだったが、これでは慣らせるものも慣らせないと再び覆いかぶさる。

「なにっ! どうしてそんなとこっ!! ぅんっ!」

 撫で付けるように入り口に智之の欲を塗りつける。

「うっ・・・。やだ、縁。気持ち悪いよ・・・」

 先程までの快楽とは違う、違和感が智之を襲う。

「ん・・・。ごめん。でも我慢して? これが終わったらもっと気持ちよくなるから。ね?」

 僅かに声に余裕にない様子に、そういえば縁はまだ一度も出していないのだと思い至る。

 そして、彼が吐き出すためにどこを使うのかを瞬時に理解して戸惑う。

「ね・・・。ね、縁。本当にここを使うの?」

 丹念に塗り込む作業を繰り返す縁に問えば、

「嫌?」

 逆に問い返されて眉を寄せた。

 嫌といえば嫌だった。そんな汚いところを使うなんてありえないと思っていた。

 けれど、男同士で繋がろうとするならそこしかない事もわかってしまってはっきりと拒否を言う事ができなかった。

 自分ばっかり気持ちよくなって縁は気持ちよくなれないなんてそれはだめだと思う。

 だから。

 無言で首を横に振った。

「・・・ありがとな」

 本当に心から嬉しそうに笑みを浮かべられて、智之の鼓動が跳ねた。

 そうして、覚悟を決めたところで指が潜り込んできて思わず身を固める。

「たっ。痛いよ、トモ。力抜いて?」

「だ、だって・・・」

「大丈夫だから。気持ちよくしてあげるから、オレを信じて?」

「・・・・ん」

 極力力を抜こうと深呼吸を繰り返すと、ゆっくりと指が動き出すのを感じた。

 広げるように抜き差しを繰り返し、内側を探る。

「うっ・・・」

 智之は異物感を堪える為に近くにあった枕を抱え込んできつく抱き締めた。

「・・・トモ。どうせならオレを抱き締めてよ」

 苦笑交じりの苦情は増えてゆく指に必死を必死に堪える智之には届かない。

「うっ。あっ」

 ついには三本目の指が内部に侵入した頃、それまでの動きとは別になにかの意図のある動きにぴくりと体が反応する。

「えっ・・・あっあっ。やっ! なにっ? やっ・・・んっ!!」

 ふいに触れた一点に、体が大きく反応する。

「お? 発見?」

「うそっ。なに? やだっ! やだっ縁!」

 強烈な甘い快楽の痺れを残すその場所は、今までの異物感を凌駕するもので、たちまち大人しかった智之自身が反応した。

「あっ! だめっ。そこやだ。縁!」

 何度も懇願してもその手を緩める事をしてくれない。

「ね、トモ。いい?」

「あっ! あっ! いいっ・・・から! 早く抜いてっ!」

 なにがいいのか分からないまま、苦しいほどの快楽から逃げたくて思わず頷くと、あっさりとその指は智之の中から去っていた。

 ほっとしたのも束の間、指よりも熱くて大きなものが押し当てられて瞠目する。

 高く抱え上げられた己の足。

「トモ、入れるよ」

 それは問いかけではなくて確認だった。

 先程問われた事がこれをさしているのだと悟った時には時すでに遅し。

「うっ。あああっ!」

「つっ!」

 指とはかけ離れた圧迫感に悲鳴を上げた。

「いたっ。痛い、縁! 痛いよ!」

「・・・つっ。ごめ・・・! 力抜いて、トモ。深呼吸。そうすれば、少しはましだから」

「マシってなに! イタっ! ううっ!」

 必死に呼吸をして、縁に視線を見やれば彼もまた表情を歪めていて。

 縁もまた痛いのだと思ったら必死になって深呼吸をしていた。

 少しずつ、中に入ってくる。

 痛くて痛くてしょうがないのに何でこんなことをしているんだろうと今さら思った。





「・・・・・・トモ、全部、入った・・・っ」

 縁がつめていた息を吐いた。

 きつく抱き締めあいながら、お互いの息が整うのを待つ。

 受け入れた場所が、引きつるように痛い。

 そして内部にある、熱い塊。

「・・・すげー気持ちいい・・・」

 うっとりと、けれど耐えるように呟かれた言葉に赤面する。

「ね。トモ動いていい? オレもう我慢できないっ」

「え? あっ。ちょっ・・・。う、ああっ」

 突然引き抜かれて、痛みに呻く。

「ううっ」

 今度はぐっと押し込められて息が詰まった。

「ごめん。ごめんトモ」

 何度も腰を打ち付けられて、痛みを堪えるように縁にしがみついた。

 すべりがいまいち悪くて、どうにも痛みがひかない。

 苦痛の声を上げていると、ふいに縁の手が智之の中心を握った。

「あっ。えっ? あっ。あっ」

 擦られ、たちまち力を取り戻すそれ。

 痛みと快楽と交じり合って混乱する。

 けれど、しだいに繋がった場所のすべりがよくなり、今度は探るようにいろんな角度から突かれて戸惑う。

「えっ。あっ! なにっ、してっ!」

 その行動の意味を知ったのは次の瞬間。

「ひっあぁっ!」

 先程指でつつかれたそこに、縁のそれが擦る。

「やっ! あっあっあっあっ!」

 あられもなく快楽から来る声を上げた。

「ゆかっ。やっ! あんっ・・・んっ! ぁっ・・・あっ!あっ!」

 痛みなど、どこかに吹き飛んでいた。

「トモっ!」

「あっ! あっ! 縁っ!」

 いつの間にか自分からも腰を振っていた。

 肌がぶつかる音と、繋がった場所からこぼれる水音に煽られて、二人で得られる快楽を貪欲に求めていく。

「縁っ! あっ! もっと! あっ! あぁっ!」

「トモっ・・・!」

 答えるように激しくされてもうどうにもならなくなった智之は縁の顔を引き寄せてがむしゃらに舌を絡め合った。

「んっ! んんっ! はっ! あっ! いっ・・・いいっよぅ!」

 唇を離したとたんに零れた言葉は無意識だった。

「トモっ! つっ!!!」

「あっ! ああっ! ・・・・・っっっ!!!」

 ひときわ強く名を呼ばれ、抱き締められて次いで叩きつけられた欲を受け止め、智之もまた縁の腹部に
自身の欲を吐き出した。

 力尽きたように二人折り重なって荒く息をつく。

 引き抜かれて、今さらになって笑いがこみ上げてきた。

「なに?」

 不思議そうに覗き込まれも、智之は尚も笑う事をやめない。

「なんだよ」

「だって・・・ぼくたち今日恋人になったんでしょ? 展開速くない?」

 しかも、告白を受けた時、智之の心は縁を恋の対象と見ていなかったのに。

「ん〜・・・。そうか? オレはずっとトモが好きだったから、遅いくらいだ」

「なにそれ?」

 くすくすと笑いあいながらじゃれあって、やがて疲れて果てていた二人は自然と眠りの中へと吸い込まれていった。










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