視線
おまけ
「ちょっ! なにいきなり突っ込もうとしてるんだよ!」
「え、えええっ?」
「女じゃないんだから勝手に濡れる訳がないだろ! このまんま突っ込んだらどうなるか考えろ、バカ!!」
想いが通じ合って、ではこの間の仕切り直しを、とやってきたホテル。
意気込んで挑んだものの、たどたどしく不慣れな様子を恥ずかしく思いつつも勇孝は懸命に愛撫を繰り返した。
けれど、なにぶん初めてのことなので相手を気遣うよりも自分の欲求に負け、暴走し始めた勇孝を「焦るな! 落ち着け、バカ!」と罵声を浴びせながらも、司はその所業を全て受け入れてくれていた。
しかし、「いざっ!」と、鼻息も荒く秘所に己のモノを宛がった時、突然グーパンチが飛んできて勇孝は目を瞬いた。
なぜそんなことになったのかわからず呆然とする。
「あんた・・・男とのセックスの知識、持ってないだろ」
恐ろしく睨み付けられてたじろいだ。
「・・・・・・」
男と女の違いとはなんなのだろう。
確かに男には女のように受け止める場所がないのだから自然と場所が限られてしまう訳で。なので、やり方は間違っていないはずなのに。
「・・・・・・・・・・」
「う・・・っ」
鋭い視線を受け止める事ができずに視線をそらした。
すると、司は大げさなぐらいため息をついてベッドから体を起こす。
どうしたのだろうかと様子を伺っていれば、彼はベッドの下に落ちていた衣類を身に着け始めて慌てた。
「えっ! ちょっ、なんで?」
「なんでじゃないよ。萎えた。今日はもうやめる」
「そんな!」
まだこっちはやる気いっぱいだというのに!
「知識もなしに続けて血を見るのはオレなんだよ。続きをしたかったらちゃんと勉強して来い、バカ」
「イテっ!!」
ビシリとデコピンをされて額を両手で押さえる。
「えっ。 本当にこれで終わりなのかよ!」
「終わり。・・・何度もラブホ来れるほど金もないし、次に機会があるとしたら来月かな」
「ら、来月!?」
「・・・ぜいぜい頑張れよ。じゃ、オレ先に出るから」
ひらひらと手を振って爽やかに部屋を出て行く司を呆然と見送る。
なんて奴だ。
こんな状況。同じ男ならどれだけツライか分かるはずなのに、あっさりと捨てていかれた。
「やっぱあいつ性格悪い・・・」
そしてそれに逆らえない事実に勇孝は深くため息をついた。
こうなったら次の機会では目にモノみせてやる!
勇孝は決意も新たに拳を掲げた。
その後。
「一之瀬!」
「ああっ・・・んっ・・・」
強く押し付ける腰。
抱き締めて名を呼べば反り返る華奢な体がびくりと震えた。
互いの熱を吐き出したのはほぼ同時。
司の満足げなため息に勇孝はほっと笑みを浮かべた。のだが。
「・・・頑張ったご褒美、あげようか」
興奮冷めやらぬ事後。
互いにまだ汗が引いていないというのに、妖しく目を細める司にごくりと息を飲む。
見せ付けるようにぺろりと赤い唇に舌を這わせ、勇孝の足の間にゆっくりと顔を沈めていく。
その姿と与えられる快感に、初心な勇孝が逆らえるはずもなく。
「いっ、一之瀬!」
そのまま気持ちも体も燃え上がってしまい、「もう一度!」と押し倒す。と、こめかみに拳を宛てられそのままぐりぐりと力を入れられて悲鳴を上げた。
「ふざけんなっ。どれだけこっちに負担がかかると思ってるんだよ!」
「そ、そんなぁ・・・」
「諦めろ。その代わりこっちで満足させてやっただろ? もう一回してやろうか?」
特別に。と、指先が濡れた司の唇を辿る。
誘うように舌がちらりとみえた。
「う・・・・」
「どうする?」
「うううっ・・・」
どうするも何も、体はすでに期待に反応している。
拒否なんてできるはずがなかった。
「お、お願いします」
どうやら思惑は上手くいったようだったが、結局のところ司の方が上手である事実は否めず、勇孝が司に叶わないのは、もう変わりようのない事実のようだった。
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