篠宮くんちの家庭の事情
−過去話−
短編
ふいに触れた小さな手のひら。
思春期を迎えつつあるだろうに、弟は嫌がりもせず光輝にすがり付いてきた。
その瞬間、熱を持つ己の体。
こんなことになるのはおかしいと思いながらも、動揺で一瞬動きが止まった。
「ミツキ兄?」
変声期を迎える前のまだ幼い声。
それすらも自身の熱を上げるのには十分な効力を持っていた。
「どうした?」
なんて、余裕ぶって聞いてみたけれど、光輝の変化を感じ取ったらしい雅也がきょとんとしながら首を傾げて見上げてくる。
その姿は文句なく可愛くて。
(・・・うっ)
かぁと、頬に熱が集まる。
なんだそれはちょっと反則じゃないのかおいおいおい。
なんて冷静さを求めて突っ込んでみるけど、弟の黒目がちな瞳を見つめていた吸い込まれそうになる。
「・・・う? う〜ん。ミツキ兄が、どうしたの?」
問われた事を問い返したらまた問い返された。
困ったように、考えるように上目使いになる姿にまたも鼓動が早くなる。
(なんだろう。この生きる凶器は・・・)
くらくらとめまいがしそうになって額を押さえた。
「ミツキ兄!? 具合が悪いの?」
「や・・・大丈夫だから」
無邪気な生き物はそれは心配そうに覗き込んでくるけど、それがまたまずい。
これ以上心臓を壊される前にこの密着具合を何とかしようと息をついた。
「雅也、もう中学生なんだから手、離して」
さりげなく手を引こうとすると、
「だ、だめ! あっ! う、ううんっ。えっと・・・ごめんなさい」
ほんのりと目元を染めて慌てて手を離した。
ああ、可愛いなぁ。
なんてぼんやりと思いながら行こう、と促すと、おずおずとついて来る小さな弟。
少しして、腰辺りの服を掴まれる感触に密かに笑みを浮かべた。
文句なく世界で一番可愛い想い人。
もう、周りなんて見えやしない。
唯一、希望を述べるというのなら。
できたらー・・・。
「っ! わーっ!!!」
横から飛び出してきた物体に過剰なくらいの悲鳴を上げて服を引っ張られた。
(ぐっ・・・)
首が絞まる感触に気が遠くなりかける。
「わっ! ご、ごめんっ、ミツキ兄!!」
すがりついて覗き込んでくる可愛い雅也。
またも頬が熱くなる。
(だからー・・・)
はぁ。とため息をつく。
ずっとこれの繰り返しだったりする。
心身ともに疲弊するこのアトラクション。
・・・もう二度と、お化け屋敷なんて入らないと誓った高校二年のGWだった。
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旧ブログからの転載。
気持ちを自覚済みの兄。とまだ無邪気なままの弟。
GWという事で弟を遊園地に連れて行った兄の受難(笑)